外国人観光客が日本をエンジョイしている姿をみると、一日本人として純粋に嬉しく思います。それはみなさんも同じではないでしょうか。
ただ、筆者の場合は「羨ましい(ちょっと妬ましい)」という感情が先に立ってしまう場面がひとつだけあるのです。中国人の「爆買い」に関しては、お金を落としてくれて「ありがたい」、買い物欲が「すごい」と感じるだけで、羨ましさは湧いてこないのですが、彼らが鉄道で移動している場面に接したときだけは、「外国人ばかり優遇されているよなぁ」と、愚痴のひとつも言いたくなります。
なぜなら、彼らのほとんどが「ジャパン・レール・パス」という「夢の切符」を手にしているからです。
これはJR6社が共同販売している外国人限定商品で、新幹線(「のぞみ」「みずほ」を除く)を含むJR全線のほか、JRバス、一部私鉄も乗り放題。特急指定席券の枚数制限もないので、時間が読めないときは、前後の列車を複数押さえておくといった贅沢な使い方も可能です。
▲ジャパン・レールパス
お値段は、7日間用が2万9110円、14日間用が4万6390円、21日間用が5万9350円。グリーン車用(7日間用で3万8880円)ならば、いっそうお得感があり、リーズナブルにゴージャスな旅が楽しめるでしょう。この「ジャパン・レール・パス」がどれだけ割安か、実例を挙げて説明すれば納得いただけると思います。たとえば、いま話題の北海道新幹線。片道2万2690円の高額な料金がネックとなり、北海道民でさえ気軽には乗車できません。ところが、パスを使えば、たった1往復するだけで簡単に元が取れてしまうのです。
購入方法は、来日前に所定の現地旅行代理店で料金を前納し、そこで受領した「引換証」とパスポートをJRの窓口で提示すると、パスと交換することができます。「ジャパン」のほか、「北海道」「九州」などの地域限定パスもありますが、「ジャパン」と比べると割引率は低くなっています。
以前、北海道の長万部駅でこんなエピソードがありました。ニセコ方面からの列車で来た台湾人カップルが、乗り換えに不慣れなため洞爺湖方面に向かう特急列車に間に合わず、後続の普通列車に乗ることになったのですが、彼らの手にはムダになった特急列車のグリーン券が。長万部―洞爺間はわずか30分ほどの距離なので、(よほどの大金持ちは知りませんが)日本人がグリーン車を利用することはまずありません。しかし、パスでグリーン券を購入した彼らは、痛くも痒くもないのです。
このときは羨ましさもありましたが、ムダになったチケットが気になりました。乗り遅れや予定変更などによって、記録上は売れているのに、空席のままになっている「もったいない」ケースが少なからずあるのではないでしょうか。こうした「デスチケット」対応が今後の課題といえそうです。
現状、ツアー形式のバス周遊が主流なのは中国人とタイ人くらいで、台湾人、香港人、韓国人は個人の自由旅行が圧倒的多数を占めています。言葉やビザの問題がなければ、分刻みのバスツアーではなく、安心安全快適な日本の鉄道で気ままに各地を回りたいと考えるのは中国人やタイ人も同じ。
実際、初回はツアー、2回目はフリーというケースが少なくありません。今後はFITと呼ばれる個人旅行者が急増するものとみられており、そうなればパスの需要はますます伸びるはず。まだ英語以外の外国語を話せる駅スタッフは少ない気がしますが、これからは中国語やタイ語が有用なスキルになると思います。
中国語ができ、鉄道に詳しい筆者は、駅や車中で困っている台湾人を手助けしてあげたことが何度かあります。
「鉄ちゃん」としては、パスを使いまくる彼らを羨ましいと思う半面、日本の鉄道をもっと好きになってほしいとの気持ちもあるのです。それにしても、せめてシーズンオフだけでも「ジャパン・レール・パス」を販売してくれたら嬉しいのですが――。