日本の魅力は日本人が一番よく分かっている――とは限らないケースもあります。実は、外国人観光客の視点によってスポットライトを浴びた「新名所」も少なくありません。そのひとつが、山梨県の富士吉田市にある新倉山浅間(あらくらやませんげん)公園です。最初はタイ人の間で評判となり、口コミなどで一気にその存在が広まり、いまや大人気観光地となっています。人気の秘密を探るべく、先日、新倉山浅間公園へ行ってきました。
富士吉田駅へは中央線の大月駅から富士急行の河口湖行きに乗り換えるのですが、平日の早朝にもかかわらず、ホームには外国人観光客の大集団が。タイ人のほか、中国人、台湾人、欧米人も多く、富士山の集客力は凄いと改めて驚かされました。
この日は前日に降った雪がまだ残っており、思いがけない「白富士」に外国人観光客は大喜び。雪にウンザリしている北海道出身の筆者は、「歩きにくいし、(雪に隠されてしまった)紅葉のほうがよかった」とガッカリしたのですが。
▲タイ人が絶賛する絵ハガキのような風景
富士吉田駅から公園までは5分ほど。しかし、展望台までは398段もの急な階段を登らなければなりません。青息吐息で山頂に着くと、写真のような絶景が迎えてくれました。富士山と五重塔(太平洋戦争の戦没者を慰霊する忠霊塔)という組み合わせは、「京都」のテイストも加味された、いかにも日本らしい風景ということで、外国人観光客のハートをとらえているのでしょう。
春はここに桜が咲き乱れ、いっそう趣を添えます。実際に噂の絶景に触れ、外国人観光客が喜ぶ気持ちが分かったような気がしました。途中、日本人にはほとんど出会わなかったのですが、いずれ「外国人観光客に大人気の穴場スポット」といった感じで紹介され、日本人が殺到するようになるかもしれません。
帰り道、外国人観光客が転倒しないよう、溶けた雪が凍って滑りやすくなった階段をスコップで叩いている地元の方がいました。腰をかがめ、骨の折れる作業です。公園は無料開放されているので、外国人観光客が増えたところで直接的なメリットはないのですが、こうした細やかな心配りが「おもてなし」の原点だと感じました。
その後、河口湖駅へ移動すると、完全に外国人観光客で埋め尽くされていました。ここまで外国人比率が高い駅は見たことがありません。鉄道の職員はもちろん、売店や食堂のスタッフも英語くらいは話せないと仕事にならないでしょう。
週末になれば、ここに大勢の日本人観光客も加わるわけで、どれほどの混雑になることか……。全体的に外国語表記などは充実しており、しっかり対応ができているとの印象を受けました。外国人観光客が激増すれば、受け入れ側の意識も自然と高まるのだと思います。
素晴らしい富士を満喫し、大月駅に戻ると、ここも外国人が駅舎内とホームにあふれていました。大月到着時点で混んでいた新宿行きの特急「かいじ」は、大月から乗車した外国人観光客でさらに混みあい、自由席は通路までぎっしり。彼らはみな特急も無制限で乗り放題の「ジャパン・レール・パス」を持っているため、どうしても特急に集中してしまうのです。
仕方がないこととはいえ、タダ同然の超格安なパス(指定席もOK)の利用者によって、高額な料金を払っている日本人の乗客が割を食うという状況は、今後さらに顕著になる可能性があります。こうした問題もまた、増え続けるFIT(個人旅行者)対策の一環といえるでしょう。