いまや当たり前の光景となった中国人観光客による「爆買い」。都市部のドラッグストアが最も「遭遇率」が高いスポットといえそうですが、2015年7月、山陰地方のとある静かな小村に「爆買い」の大集団が押し寄せ話題となりました。その場所とは、鳥取県日吉津(ひえづ)村。人口約3500人の県下で唯一の「村」です。「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な近隣の境港に、上海から来た世界最大級のクルーズ船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が入港し、なんと人口を上回る約4000人が「イオンモール日吉津店」で「スーパー爆買い」を繰り広げたのでした。村のみなさんは、さぞ驚かれたことでしょう。
近年、こうした大型クルーズ船で来日する中国人観光客が急増しています。なにせ彼らの最大の楽しみは買い物。クルーズ船が人気なのは、重量制限がある飛行機と違い、好きなだけ荷物を持ち込めるメリットがあるからです。中国に着いたあとは、どうやって運ぶのかよく分かりませんが。現在、博多港がクルーズ船寄港数ナンバーワンになっていますが、境港も誘致にかなり力を入れており、確かな成果をあげています。たくさんの良港を有している日本は、大きなアドバンテージがあるといえるでしょう。
▲中国人観光客であふれかえる店内(イオンモール日吉津店提供)
今夏、その日吉津村を訪ね、店次長の三阪昇さんと営業マネージャーの玉田賢二さんに、当時のエピソードなどを伺ってきました。あれから1年が経ったとはいえ、現場を仕切られたお二人にとっては、忘れられない一大イベントだったようです。通常営業を続けながら、10日間かけて入念な受け入れ準備を進めてきたそうです。中国語のPOP制作、通訳スタッフの確保、商品の大量発注、100台ものバスの誘導――やるべきことは目白押しで、前例がない規模だけに、スタッフの苦労は想像に難くありません。なかでも、一番の課題が免税手続きでした。諸々のデータを入力しなければならず、かなりの時間を要する作業であるため、同店の免税カウンターには「1組あたり45分」との目安が掲示されているほど。当日はパソコン5台をフル稼働して対応に当たったのですが、とても捌ききれる人数ではありませんでした。
「本当は15台くらい欲しかったのですが、かといって、パソコンをリースしてもスタッフが足りませんからね……」
ドラッグ・ヘルス売り場だけに人が集中してしまったことも誤算でした。日本人であれば、お目当ての売り場が大混雑していれば、まず違う売り場をみてから、と考えますよね。時間的な制約があったせいもあるのでしょうが、中国人の場合は、とにかく欲しいものにまっしぐらなのです。ルール上、医薬品は他のレジで処理することができないこともあり、あっという間に長蛇の列に。目薬、虫刺され用の痒み止め、日焼け止め、化粧水といった人気商品は在庫が早々に尽きてしまいました。なかには免税を放棄して、商品購入を優先した人もいたのではないでしょうか。食品や雑貨など、満遍なく売れてはいたものの、やはりドラッグ・ヘルス関連商品がダントツだったようです。
「正直、もっと仕入れておけば、まだまだ売れたと思います。ただ、仕入れた商品はすべて(店の)買い取りになるという事情もありまして。ここまで凄いとは想定外でした。次もこういう機会があれば、この前のデータを活かせるのですが」と苦笑いされていました。4000人の「爆買い」パワー、おそるべしです。
(次回に続く)