最近はマイナーなスポットにまで出没しているアジア人観光客ですが、彼らが特に関心を寄せているのが「花見」の名所です。この春も、美しい桜を求めて、たくさんの中国人や台湾人がやって来ました。
「四季」は日本の魅力を体現する重要な要素。そのなかで、桜は春を象徴する日本らしさがあふれる風物詩であり、多くの外国人観光客が感動するのも不思議な話ではありません。そのうち、秋の紅葉も、桜同様に人気が高まるものと思われます。
中国や台湾にも桜はあるのですが、どうもあまり風情が感じられず、観賞できる場所も限られています。桜のような繊細な花は、大陸的なスケールの中国や、南国ムードの台湾には似合わないのかもしれませんね。
日本政府観光局が発表したデータによると、2015年の訪日外国人観光客は約1973万人で過去最多を記録しましたが、そのなかの約499万人を占める中国人のうち、約40万人が4月に訪問したそうです。
4月の訪問者数は前年同月比の約2倍。これは何を意味しているかというと、間違いなく花見目的でしょう。中国の旅行会社でも、「桜(中国語は櫻花)」「花見(中国語は賞花)」といったキーワードを含む商品が売れ行き好調とのこと。広州在住の日本人の知人は「SNSでは日本の桜の写真がアップされ、多くの人が憧れを抱いています。中国では野外で宴会をする文化もあまりないので、それも楽しそうに映るのではないでしょうか」と話していました。
筆者が札幌でお手伝いしている雑誌社のすぐとなりには、桜の名所で知られる円山公園があり、ちょうど満開になるGWに通ってみたところ、たくさんの中国人や台湾人を目にしました。花見にアジア人というのは、数年前にはなかった光景です。中国人のグループはひときわ声が大きく賑やかなので、「爆宴」といった感じでしたが、ただ、周囲も派手に騒いでいたこともあり、彼らだけが目立っていたわけではありませんでした。一部に「うるさい」との批判もある中国人観光客にとって、気兼ねなく楽しめるシチュエーションといえそうです。上海から来たという女性は「毎年、こんなに素晴らしい桜を見ることができる日本人は羨ましいですね。飲み食いよりも写真を撮るのが一番の楽しみ。SNSで友だちに自慢します」と話し、手慣れた様子で自撮り棒を操作していました。
こうした花見客を商機ととらえる動きが広まっています。4月5日付の「朝日新聞」によれば、上野公園に近い松坂屋上野店では、花見シーズンに中国語通訳スタッフを増員して対応し、公園内に出店している屋台でも中国語のパンフを配布したそうです。「上野店の場合、花見時期のほうが春節よりも来客が多い」とのことですから、花見人気の凄さを物語っています。
また、札幌では藤田観光系列のホテルグレイスリーが中国語でまとめたチラシを作成。市内の見どころのほか、「枝を折らない」「ゴミは分別して持ち帰る」「場所は譲り合いを」といったマナーなどが丁寧に紹介されており、大変によくできた内容となっています。マナー違反といわれるトラブルは、単に文化の違いに起因することが多いので、こうしたサービスが広がっていけば、花見の宴席で日中交流の花が咲く場面も増えるでしょう。
中国人といえば、「爆買い」ばかりがクローズアップされがちですが、桜を愛でる中国人が急増している背景には、日本観光の目的が「モノ」から「自然」や「サービス」へと変化している状況があります。筆者の個人的な感想を言わせてもらうと、彼らが日本製品をリスペクトしてくれるのは嬉しい半面、何か物足りなさを感じていたことも事実です。それは、「日本の良さはモノだけじゃないですよ」というような・・・・・・。桜の魅力と日本人の素顔に触れた中国人は、より深く日本にシンパシーを抱いてくれるに違いなく、長い目でみれば、日本社会にとって「爆買い」以上のメリットがあるはず。来春も桜前線とともに、たくさんの中国人に来てほしいと思います。