サービス業についていえば、日本の「おもてなし」は世界的にみて最高レベルだと思うのですが、トラブルに直面した際の対応力は、はたして合格点に達しているでしょうか。昨年のクリスマスイヴに、そんなことを考えさせられる「騒動」がありました。50年ぶりといわれる大雪のため、新千歳空港で足止めされていた約100人の中国人観光客が、警官や空港職員と揉みあいになるなど大暴れしたのです。キャンセル待ちの彼らを尻目に、当日便の予約を入れていた人たちが続々と出発していくのをみて、イライラが爆発したとのこと。かねてから一部のマナーの悪さが指摘されていた中国人とあって、世間では「だから中国人は……」という否定的な声が多数を占めました。
当然、非は中国人観光客の側にあるのですが、とはいえ彼らを非難するだけでは何の教訓も得られません。こうしたトラブルを回避するにはどのようなフォローが必要だったのか、検証してみることが大事でしょう。
新千歳空港の機能が完全にマヒした12月22・23日両日は、ほとんどの便が欠航となり、しかも電車やバスもストップしたことで、1万人以上が空港での夜明かしを余儀なくされました。欠航の影響は24日にも及び、新千歳発着便には軒並み大幅遅れが生じ、この日の夜も「帰宅難民」が空港で寒い一夜を過ごしたのですが、実は筆者もそのひとりでした。羽田発の最終便が5時間近く遅れ、新千歳に到着したのが深夜2時になったため、身動きが取れなくなってしまったのです。
▲航空会社が手配したホテルのロビーで送迎バスを待つアジア人観光
本来は22日の成田―札幌便に乗る予定でしたが、札幌便は全便欠航に。翌日の便に変更しようにも空席がなく、ようやく確保できたのが24日の羽田発最終便でした。22日は航空会社が成田市内のホテルを用意してくれたものの、カウンターでその手続きをするのに、3時間以上も待たされました。これほど時間を要したのは、翌日の空席がない状況下、約9割が外国人観光客で、スタッフが質問攻めに遭うなど説明に手間取ったからです。1組ずつ懇切に対応する姿勢は評価できますが、こうした緊急時は、英語の場内アナウンスで現在の状況やホテルの案内をしたほうが効率的なのではと感じました。実際、スタッフの人数が十分ではなく、状況が把握できずに不安そうな表情を浮かべている人がたくさんいましたから。
ただ、「不可抗力による欠航なので、特殊なケース」(航空会社スタッフ)とはいえ、とりあえず寝場所は確保できたこともあり、大きな混乱はみられませんでした。もし「ホテルは自分で手配してください」という対応だったら、どうなっていたでしょうか。
ちなみに、以前、ニュージーランドから香港まで乗ったキャセイパシフィック航空は、香港到着が遅れ乗り継ぎ便に間に合わないとの理由で、高級ホテルを用意してくれました。今回の成田も、ほとんどが海外からの乗り継ぎ客でしたから、特例的に宿泊費を負担してもらえたものと思われます。
一方、深夜2時に到着した新千歳のケースは、すでに天候は回復しており、遅延理由が不可抗力ではなかったのですが、ホテルはおろか、毛布さえ「数が足りない」と言われ手にすることができませんでした。やむなくコンビニから拝借した段ボールを敷き、冷たいフロアに横たわってはみたものの、熟睡できるはずがありません。もし停電にでもなって暖房がストップしたら――と想像すると、ぞっとしましました。
苦しい時間に耐え、重い足取りでJRの駅へ行くと、そこには始発を待ちわびた人の長い列が。ここでも大きな荷物を持った外国人観光客が多く、狭いホームは人と荷物であふれ、事故が起きかねない危険な状態でした。ホームへの入場制限があってしかるべきと思いましたが、想定外の事態に駅員も困惑している様子でした。
車中で隣り合わせた香港からの家族連れは、「せっかくの北海道旅行が2日もムダになってしまいました。空港は寒かったですね」と話していましたが、やはり毛布は配布されなかったそうです。不測のトラブルとはいえ、早々に毛布が不足したのはお粗末ですし、せめて暖房の温度を上げることくらいできなかったのでしょうか。暴れた中国人の肩を持つわけではありませんが、震える乗客を残し、職員だけが暖かい奥の部屋に消えていくのをみると、怒りがこみ上げてきたことも事実です。
中国人の暴走ばかりがクローズアップされ、詳細な経緯については、しっかり検証されていない気がします。なかには前々日から待たされた人もおり、疲弊しきった彼らに対し、十分な説明はあったのか。騒ぎ出した人を注意するにしても、メンツをつぶさないよう配慮したのか。
「中国人以外は騒がなかった」「他のアジアの空港はもっとひどい」などと「正論」を振りかざすだけでは、真の「おもてなし大国」にはなれません。大雪以外にも、地震、台風、豪雨といった天災のリスクが高い日本。トラブルに直面したときこそ底力が問われることを肝に銘じ、万全の対策を講じてほしいものです。