可視光の中では赤の振動数が最も低いことを学びました。振動数でいうと、500 THz以下くらいから、誰もが赤と認識するようになり、大体450 THzくらいまで、ずっと同じような色に感じます。どこまで振動数が下がっても見えるかというのは、個人差が出てきますが、400 THzくらいになると、よっぽど強い光でないかぎり、誰も見ることができません。赤い光の外側に(振動数が赤い光以下に)なって見えなくなったので、この領域の電磁波を「赤外線」と呼びます。赤外線は、大体400 THzから、下の方は数THzくらいまでの範囲を指します。しかし、この境目も厳密に定義があるわけではありません。
赤外線は目では見えませんが、体に当たると感じることができます。それは、赤外線の領域にある電磁波のいくつかが、私たちの体を構成している分子に振動を与えることができる振動数を持っているからです。第1回で学んだことを覚えているでしょうか? 分子の振動が激しくなるということは、熱をもらうということです。つまり、赤外線が当たると、暖かく感じます。太陽の下で暖かく感じるのは、目に見える可視光の働きではなく、太陽光に含まれる赤外線のおかげなのです。
赤外線の中でも可視光に近い領域を「近赤外線」、可視光から遠い領域を「遠赤外線」といいます。熱を与えやすい振動数の多くは遠赤外線の領域にあるので、遠赤外線のことを「熱線」と呼ぶこともあります。遠赤外線ヒーターというような名前の暖房器具がありますが、これはその名の通り、遠赤外線で暖めているのです。
近赤外線の方は、熱線としての働きはあまりありませんが、私たちの身のまわりで大活躍しています。代表的なものを2つ紹介しましょう。ひとつは、テレビなどのリモコンです。リモコンから出る近赤外線をテレビ本体が受信して、動いているのです。近赤外線なので肉眼では見えませんが、デジタルカメラなどでリモコンの赤外線出射口をのぞいてみれば、リモコンを操作したときに光ることが確認できます。デジタルカメラのセンサーは人間の目と違い、近赤外線も感知できるからです。これはリモコンが壊れているかどうかを調べる、簡単な方法です。 もうひとつは意外かもしれませんが、インターネットなどの光通信で使われている光信号です。「光通信」という名前から可視光の光が使われている印象を受けますが、光通信の光は、実は目に見えない光なのです。世界中に張りめぐらされた光ファイバーの中を、近赤外線の光信号が飛び交っているのです。
赤の外の電磁波を赤外線と呼んだのと同じく、可視光よりも振動数が高い方、すなわち紫の外の電磁波は「紫外線」と呼ばれます。この領域の電磁波は、振動数よりも波長を使って表すことが普通です。波長で言うと、400 nm (ナノメートル)~ 10 nmくらいの範囲が紫外線になります。振動数が高いということはエネルギーが高いということで、分子の化学結合の仕方を変化させる力を持っています。そのため、紫外線を浴びると、分子が化学変化を起こすことがあります。紫外線で日焼けすることや、紫外線に殺菌作用があることなどがその例です。
太陽の光の中にも紫外線はたくさん含まれています。その中には、生物に有害な紫外線も含まれています。そのような紫外線は上空のオゾン層が吸収してくれるので、私たちのいる地表にはほとんど届いていないのです。
可視光の外側には、赤外線と紫外線の領域があることを知りました。「光」というと可視光だけでなく、その外側の赤外線と紫外線を意味することもあります。しかしさらに外側にいくと、「光」と呼ぶことはまずありません。ここでは光と呼ばない電磁波について見ていきましょう。
まず、赤外線よりも振動数の低い電磁波です。下の図に示したように、赤外線より振動数の低い(波長が長い)電磁波は、すべて「電波」と呼ばれています。別に磁場がなくなったわけではありませんが、「電磁波」の「磁」という文字が取れて、「電波」となっています。歴史的にそのような名前がついただけで、「磁」という文字がついていないことに意味はありません。
電波は放送や通信に昔から使われていて、日常生活では欠かせないものになっています。その電波も、実は光と同じ電磁波の一種だということを良く覚えておいてください。テレビやラジオ放送の電波、携帯電話の電波、電波時計の電波など、私たちのまわりには、莫大な量の電波が飛び交っています。電波は可視光よりもずっと振動数が低いので、目には見えませんが、もし見ることが可能なら、私たちのまわりはまぶしくて大変です。
電波の中でも振動数によって名前がついています。長波は電波時計などに、中波から超短波の範囲はラジオやテレビの放送などに、マイクロ波はデジタル放送・携帯電話・GPSシステム・電子レンジなどに使われています。
次に振動数の高い方に目を向けて、紫外線の外側を見ていきましょう。この領域は「放射線」と呼ばれるようになります。放射線という言葉を聞くと、危険なものだという印象を受けると思います。その印象は、間違いではありません。紫外線よりも振動数が高く、電磁波としてのエネルギーは非常に高いので、生物を構成している分子にも甚大な影響を与えます。そのため放射線を浴びることを「被曝」という言葉を使って表します。
放射線の中も、おおまかに2つの領域に分類されています。紫外線のすぐ外側、波長10 nm~ 10 pm(ピコメートル)くらいの範囲の放射線を「X線(エックス線)」と呼びます。X線は19世紀末にレントゲンが発見したもので、今でも医療などの分野ではレントゲン撮影という言葉でX線が使われています。X線を使う検査では、ある程度の量のX線を被曝することになるので、検査で早期発見できるメリットとX線の被曝による健康被害へのリスクのどちらが高いか、という点を心配する方もいます。心配するような被曝量ではないですが、ある種の検査で放射線を使っていることは事実です。
X線よりも波長が短くなると、「ガンマ(γ)線」と呼ばれるようになります。電磁波の中では、最もエネルギーが高く、原子核反応によって放出されます。放射線という言葉の本来の意味は、放射性物質の崩壊によって放出されるアルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線の3つを指すものです。このうちのガンマ線だけが電磁波です。
X線やガンマ線は基本的には人体に有害ですが、レントゲンのような医療の分野や物質評価などの科学の分野でよく使われています。