そもそも「熱」や「温度」とは何でしょうか?
例えば、40℃のお湯と20℃の水の物理的な違いは何でしょうか? どちらも水分子、すなわちH2Oという分子が多数集まったものです。1リットルのお湯の中にも、1リットルの水の中にも、ほぼ同数の分子があります。お湯と水では、構成している分子の種類も数も変わらないのです。
しかし、違うことがひとつあります。それは、分子の運動の激しさ(「運動エネルギー」と言います)です。温度の高い方が、激しい運動をしています。というより、分子が激しい運動をしている状態を「温度が高い」と言うのです。
分子の運動を考える場合、運動エネルギーを「熱エネルギー」と呼びます。この熱エネルギーのことを、日常生活では「熱」と表現しています。熱は受け渡しすることが可能です。私たちの皮膚と水を例に、見てみましょう。
私たちの体温はだいたい36℃です。ですから簡単に言うと、36℃以上の温度のものに触れると「熱い」と感じ、逆に36℃以下のものに触れると「冷たい」と感じます。これを分子の運動で考えていきます。
20℃の水は、20℃に対応する運動をしています。それに対して、私たちの皮膚の分子は36℃に対応した運動をしています。要するに、皮膚の分子の運動の方が激しい運動をしているわけです。そして、水の分子は絶え間なく、手の皮膚に衝突します。この衝突によって、それぞれ水と皮膚の分子の速度はどうなるでしょうか。
たとえば、重さの等しい2つの球が異なる速さで正面衝突した場合を考えましょう。この場合、衝突後に2つの球の速さは入れ替わります。遅かった球は速かった球に弾かれることで速くなり、逆に速かった球は遅くなるのです。
ここまでで説明したように、熱は温度の高い方から低い方へ移動します。そんなことは日常の経験で知っているし、当たり前だと思うかもしれません。しかしサイエンス思考の大事なところは、「なぜそうなるの?」という子どもの質問のような素朴な疑問に対し、基本原理から考えることにあります。
熱が温度の高い方から低い方に移動するのは、分子の衝突によって運動の激しさを交換し合っているからだ、ということをここで学んでください。そんな説明では余計にわからなくなった、と感じる方もいると思います。しかし、このように身のまわりの現象をミクロの視点で考えることが重要です。
たとえば、20℃の水と40℃のお湯を混ぜると、その中間くらいの温度になります。水分子が衝突を繰り返すことで熱い方から冷たい方へ熱を渡していくので、最終的には熱が上手くバランス(調和が取れた)するからです。局所的には衝突のたびに熱の移動が起こっているのですが、平均してみると全体が同じ温度になっています。言いかえれば、ミクロには熱を交換し合っているけど、マクロに見るとバランスして一定の温度になっているということです。
では、20℃の空気の中にいると、私たちの体温は最終的に20℃になってしまうのでしょうか?
もちろん、そんなことは起きません。私たちの体の中では、食べたものを燃やして生命活動のエネルギーを作っています。つまり、体内で熱はどんどん生産されています。皮膚の表面の分子は、20℃の空気分子に熱を与えて、運動の激しさが一瞬下がりますが、すぐに体の内部から熱をもらいます。内側からもらって、外部の空気に渡して、という上手いバランスを取って36℃の体温が維持されているのです。例えは悪いですが、死んだ人は体内での熱の生産がなくなるので、徐々に空気と同じ温度になっていきます。死人が冷たくなるというのは、空気と同じ温度になるということなのです。