教育業界の常識にQuestionを投げかけるメディア

創考喜楽

第9回:なぜ、動いている電車の中で
キャッチボールができるのか

KNOW-HOW

等速度運動は静止と変わらない

 

 ここでは動いている電車の中で、キャッチボールすることを考えてみます。実際には電車の中でキャッチボールなどしてはいけませんから、あくまでも想像上の話です。

 

 図1のように進行方向に向かって左側の壁にA君、右側の壁にB君がいます。

 

  

 

 A君がB君めがけて投げたボールは、電車が止まっているときと同じように真っ直ぐ届くでしょうか? 答えは「届く」ですが、電車が一定の速度で動いている場合(「等速度運動」と言います)という条件がつきます。等速度運動をしている電車の中では、静止している場合と“全く変わらずに”キャッチボールができます。

 

 では外の景色が見えないように窓が無く、また走行時もスムーズに等速度運動する電車があったとしましょう。このとき乗っている人は、静止しているのか等速度で動いているのか、どうやったら知ることができるでしょうか? キャッチボールだけでなく、どんな実験でもできる準備がしてあったとして、何をしたら静止か等速度運動かを判定できると思いますか?

 

 答えは意外かもしれませんが、「どんなことをしても、絶対に判定できない」なのです。静止している場合と等速度運動をしている場合では、“物理法則はすべて完全に同じ”なので、どんな実験をしても完全に同じ結果が出るのです。

 

 

電車の外から見ると

 

 等速度運動している電車の中でのキャッチボールは、電車の外にいるCさんからはどう見えるでしょうか? 図2は真上から見た様子を表しています。

 

 

 Cさんから見れば、A君もB君も左に動いています。もし投げたボールがCさんから見ても真っ直ぐ進むのならば、ボールが届く間に左に動いてしまったB君には到達しません。Cさんから見ると、ボールは点線のように斜めに進んでいるのです。そのため、ちゃんとB君に届きます。

 

 たとえばA君はB君に向かって、時速40 kmの速さでボールを投げたとしましょう。このとき、電車が時速30 kmで等速運動していたら、A君自身も左方向に時速30 kmで動いているのです。ボールの速さは図3のように、この2つの速さの合成になって斜めに進むのです。

 

 

 このように、速度は足すことができるので、外の人から見てもおかしなことは起こらず、ボールはA君からB君に届くのです。

 

 

加速中、減速中はみかけの力が働く

 

 次に等速度運動中ではなく、加速中の電車を考えましょう。加速中は電車のつり革が進行方向と逆に傾くのを見たことがあると思います。また、加速中は自分の体が後ろに押されるような力を感じることもあると思います。つまり、加速中は進行方向に対して後ろ向きの力が働くのです。

 

 これをキャッチボールで考えてみましょう。加速中にA君からB君に向かってボールを投げたとします。このとき、ボールがB君に向かって進む間にも加速は続いているので、B君の左向きの速さはどんどん速くなります。つまり、ボールを投げた瞬間よりも、B君の速さが速くなっているので、ボールはB君に届かずに、右にそれていくのです。あたかも、ボールに右向きの力が加わったように見えるのです。この力のことを「慣性力」、もしくは「みかけの力」と呼びます。

 

 

 実際に何らかの力を受けているわけではないのですが、A君とB君から見ると、あたかも何らかの力が右に働いてボールがカーブしたように見えるので、「みかけの力」というのです。減速中はこの逆になるので、みかけの力の向きは進行方向と同じになります。最も激しい減速である急ブレーキでは体が進行方向に倒れますが、これもみかけの力によるものです。「みかけ」とはいっても、激しいときは本当に倒れてしまいます。

連載一覧

Copyright (C) IEC. All Rights Reserved.