「労働時間の長さ」と「労働の疲労度(仕事からぐったりと疲れて帰るか)」を同じ調査の中で訊いているISSP国際共同調査の結果から、両者の関係を探ってみましょう。
図には、X軸に長時間労働(週50時間以上)を行っている者の比率、Y軸に「仕事からぐったりと疲れて帰ること」が「いつもある」と「よくある」の比率合計をとった相関図を掲げました。
普通に考えると、長時間労働が多い国ほど仕事の疲れも大きい筈です。しかし図を見れば分かる通り、正の相関はほとんど見られません。回帰分析の結果は、y = 0.0522x + 40.192(R2 = 0.0041)です。
これは、同じように長時間労働を行っていても、国民によって疲れたり、疲れなかったりするためだと考えるより他はありません。もちろん、労働時間の長さだけが疲労を生むのではなく、労働の強度・集中度や仕事のストレスの高さも疲労を生むと考えられます。しかし、台湾や韓国、日本の労働の強度が低く、ハンガリー、南アフリカ、ブルガリアの労働の強度が高いとは、少し、考えられません。むしろ、労働への耐性、あるいは勤勉さを要因として考えた方が自然です。
長時間労働国上位5位は、上から、韓国、ドミニカ共和国、台湾、フィリピン、日本です。ただしこれらの国では仕事の疲れはそれほどでありません。第6位のブルガリアと日本の長時間労働比率はほぼ同じですが、ブルガリアでは、疲労度が日本の2倍弱と大きくなっています。労働は長くありませんが、フランス人は日本人よりずっと疲れている人が多くなっています。
長時間労働比率から疲労度を引いた値を「長時間働いている割に疲れない程度」をあらわすものと考え、「疲れにくさ度」として算出しました(表参照)。
疲れにくい国上位5件 | 疲れやすい国上位5位 |
1.台湾 | 1.ハンガリー |
2.韓国 | 2.南アフリカ |
3.ドミニカ共和国 | 3.ラトビア |
4.日本 | 4.フランス |
5.ベルギー | 5.ブルガリア |
長時間労働が多い国は、疲れにくい国である点も特徴として浮かび上がります。
日本で過労死が生ずるのは、長時間労働そのものというより、長時間労働が平気な人が多いのでそれが普通になってしまった中で、必ずしも、長時間労働に耐性のない人、あるいは、手を抜かない・抜けない・抜かせないような環境に置かれた人が悲劇に陥るためではないでしょうか。経営者は、大丈夫な従業員が多いからといって安心していては駄目なのです。