就職した若者がすぐ辞めてしまう傾向が続いている一方で、若者の終身雇用志向は、むしろ、強まっています。
毎年、新人研修の際に採られている日本生産性本部のアンケート調査によると、「今の会社に一生勤めようと思っている」新入社員は、2000年頃は2割しかいなかったのに、最近では6割近くを占めています。また、これと比例して、「社内で出世するより、自分で起業して独立したい」という新入社員は、2003年頃には3割を越えていたのですが、最近は12~14%程度に減っています。
日本型雇用システムを構成する3点セットとして、終身雇用、年功賃金、企業別組合があげられます。一生、同じ会社に勤めることになるのであれば、入社したては賃金が低く、勤続年数と年齢を重ねることによって大きく上昇する年功賃金は、悪くない制度だともいえるでしょう。
2番目の図に示されているように、年功賃金については、かつては、中高年の勤労者の支持率は高く、若年層の支持率は相対的に低かったことが分かります。若者は、自分たちへの評価はもっと高くて良いと考えていたのです。ところが、最近は、中高年より若年層の方が年功序列賃金に対する支持率が高くなっています。これは、第1の図で示された終身雇用志向の高まりと整合的な結果です。
企業はグローバル競争の激化と長引く不況の中で、長期的な企業体力づくりよりも即戦力を重視し、中途採用・有期雇用あるいは能力給の拡大とともに賃金カーブのフラット化、すなわち年功賃金の解消へ向けて動いてきました。近年、成果主義給与はやや見直されているものの能力給はむしろ相対的重要性を増している点については第1回連載「賃金・給与を何で決めるか-成果主義の見直し-」を参照して下さい。ところが、若年層が求めている方向は、これとは異なっています。
若者の志向は、単なるノスタルジー、あるいは保守化傾向なのでしょうか。それとも、常識に捕らわれない新時代の考え方なのでしょうか。普通は前者と見なし、若者の時代不適合を嘆くパターンが多くなっていますが、後者の可能性も私は完全には捨てられないと考えています。しかし、雇用に関する意識と現実が乖離し、若者が「就活」に過剰なほどに重きを置かざるを得ない心理状態に陥る結果となっているのは、やはり、不幸と言わざるをえないでしょう。