初めに、私たちの生きる時代のあいさつについて考えてみます。
一つは、これまで私たちが大切にしてきたおつき合いの世界です。家族や気心の知れた者の間では、この関係が基本でしょう。それは今後も守り育てていきたい、質のいい人間関係に不可欠の、豊かな心づかいのある世界です。そこでのあいさつのマナーは、相手の気持ちを思いやり、細やかな情を通わせることをめざしてきました。
①「情」を交えて話す
②控え目な態度
③周りの人・世間の人と同じことをする
④真面目な態度と言葉づかい
この世界のコミュニケーションは、言葉で明らかにしなくても成り立つのです。だから「阿吽の呼吸」や「一を聞いて十をさとる」ほどの察しのよさが尊ばれます。
例えば、肩を叩きながら
「例のあれ、いつもの調子で、よろしく頼むよ。まあ、どっちかというと、もうちょいキツ目がいいかな」と言えば、胸をポーンと叩くしぐさをしながら「了解。お任せください」と応えて、実は最先端技術の現場での会話が成り立つような世界です。「口(言葉)じゃないよ。勘と腕だよ」というわけです。人間関係が「あいまい」でいいどころか、「あいまいさ」こそが、物分かりがいいと評価されるのです。
もう一つは、新しい時代・国際化時代のお付き合いのマナーです。いわば、あいさつの「グローバルスタンダード」であり、そのままビジネス会話のマナーともいえます。
①自分の考えを論理的に表現する
②割り込んで主張するくらいの積極さで大胆に論議する
③他の人と異なった主張をする
④ユーモアをはさみながら話す
このような世界でのコミュニケーションは、分かりやすい言葉で明らかに表現しなければ成り立たないのです。だから、はっきりということが求められます。論理性や合理性こそが尊ばれます。
ビジネス会話は、分かりやすさと的確さが条件です。
しかし、人間同士の会話には、美しさや豊かさが求められます。
ビジネス会話は多く「理」で成り立つ、人間同士の会話はどうやら「情」で成り立っています。
私たちがめざしたいのは、この画面をシーンに応じて使い分けること、あるいは「情」と「理」を兼ね備えたあいさつ・お付き合いをすることではないでしょうか。