「飛行機はなぜ飛ぶのか?」という質問に対して、「翼があるから」と答える人が多いと思います。しかし「なぜ、翼があると飛ぶのか?」とまで聞かれると、その理由はなかなか答えられないのではないでしょうか。
ここではまず、より身近なボールを用いて考えてみます。
ボールは下図1のように、空気をかき分けて進んでいきます。この図ではボールが左方向へ飛んでいて、空気は左から当たっていることになります。図のようにボールによって空気が分かれますが、ボールが回転していなければ分かれた空気は同じ速さでボールの側面を進み、最後に合流します。この場合、特に空気の流れから力が生じることはなく、ボールは放物線の軌道を描く放物運動(空気抵抗はあります)になります。
では以下の図2のように、ボールが時計回りに回転していたらどうなるでしょうか?
図1の場合と同様に、ボールは左向きに進んでいるとします。この状況で、まずボールの上に向かった空気を見てみましょう。ボールの回転は時計回りなので、ボールの回転の方向が空気の流れの方向に一致しています。ですからボールの回転が空気の流れに影響を与えるならば、空気の流れを速くする力が働くことになります。
逆に、ボールの下に行った空気は、ボールの回転の方向が流れの方向と逆なので、摩擦により空気の流れを遅くする力が働くことになります。つまりこの図では、ボールの上の方の空気は流れが速く、下の方の空気は流れが遅くなるのです。
空気の流れが速いということは、空気分子がボールの側面を通過する時間が短いということです。空気分子の衝突が圧力になるので、速く通過してしまうと圧力が低くなります。空気の流れの速さがボールの上下で異なることによって、ボールの上は圧力が低くなり、下は圧力が高くなるのです。
この圧力差によって、下から上へ力が働くことになります。回転の方向によって力が働く向きが変わることで、例えば野球では、さまざまな変化球が投げられるのです。
翼に話を戻しましょう。翼の断面図は、おおまかには下の図3のような形になっています。下の面が比較的平らで、上面の方が丸みを帯びてふくらんでいます。この図では飛行機は左向きに進んでいるので、空気の流れは左から来て、翼によって上面と下面に分かれます。このとき、上面の方が空気の流れる距離が長いことが図を見て理解できると思います。
さて、上と下に分かれた空気がまた一緒になるように翼の後ろで合流するならば、上に行く空気は下の空気よりも速く流れなければ追いつきません。そうして下よりも上の方が空気の流れが速く(圧力が低く)なり、全体で上向きの力が働くのです。この力のことを「揚力」と呼びます。
揚力は速さが速いほど、それに比例して大きいことがわかっています。飛行機のような大きく重いものが重力に打ち勝つためには、相当な速さが必要になります。ですから、飛行機では離陸の際に十分に加速し、機体が浮き上がるだけの揚力を得なければなりません。このような原理であるため、飛行機はスピードを落とすことができないのです。
予定より早く目的地に着きそうだとしても、スピードを落とすことはできません。機体を浮かせるだけの揚力を維持するスピードが常に必要なのです。
翼の形によって揚力が生じるのならば、同じような形のものも同様のはずです。自動車も基本的には、下が平らで上が膨らんでいる形をしています。ということは、スピードが上がりすぎると自動車にも無視できない大きさの揚力が働くことになります。
自動車はタイヤと地面の摩擦で動いているため、揚力が働くと摩擦力が減り、駆動力が弱まったり方向の制御もできなくなったりしてしまいます。ですからスピードを出すような車は、エアロパーツと呼ばれるものを付けて揚力を抑えるようにしています。代表的なものに、下の図4に示したスポイラーと呼ばれる翼の逆の形をしたような、車の後部に付けるものがあります。