雲はどうして白いのでしょうか? 雲は大気中の水分子が集まって液体(水滴)か固体(氷の粒)の状態になったものです。その水分子の粒の大きさは、小さいものでも1μm以上あるので、可視光の波長よりも大きいです。前回説明したレーリー散乱は、光の波長よりもずっと小さい粒子(空の場合、空気の分子)による散乱でした。雲を構成している水の粒子は、光の波長よりも大きいので、レーリー散乱は当てはまりません。
粒子の大きさが可視光のどの色の波長よりも大きいと、すべての色が同じように、しかも強く散乱されます。雲の中ではすべての色が同じように、複数回散乱されているのです。すべての色がいろんな方向に散乱されて目に届くとどう見えると思いますか? 可視光のすべての光が混ざると、私たちはそれを「白」と感じます。虹の七色の中に白はありませんが、白は七色すべての光が混ざったときの色だからです。逆に、どの色の光もないときが「黒」です。
牛乳が白いのも、雲と同じ理由です。牛乳の粒子も可視光の波長よりも大きいので、すべての色を散乱しています。雲や牛乳からやってくる光は、すべての色が混ざって見えるので、白になるのです。
水は透明ですが、これは、水の中は水分子しかないからです。水分子は空気の分子と同じく、可視光を吸収しないので、空気と同じく透明なのです。空気と同じくレーリー散乱はありますが、レーリー散乱は弱いので、コップの水くらいでは、散乱の効果はわかりません。空や夕日のときのように、非常に長い距離を通ってくる場合に効果が出てくるのです。
では、透明でも色のついている飲み物はどうでしょうか? たとえば、ロゼワインは透明ではありますが、赤っぽく色がついています。それは、ロゼワインの分子が赤以外を吸収しているからです。グラスの向こう側が赤色に見えるということは、可視光の中で赤の成分は通り抜けているということです。つまり、赤は吸収されないけど、赤以外は吸収されたということです。ロゼワインや赤ワインは、ワインの分子が赤以外の光を吸収しているのです。赤ワインでは吸収が強く、グラスの向こう側まで見えないかもしれませんが、基本的には同じです。「赤ワインだから、赤色を吸収している」という逆の印象を持ちそうですが、「赤だけ吸収していないから、赤に見える」のです。
葉っぱが緑色の理由も同じです。意外かもしれませんが、葉っぱは緑の光を吸収しているのではなく、緑以外を吸収しているのです。植物は光合成によって、太陽の光を生きていくためのエネルギーに変えています。その大事な光合成を行っているのは、葉っぱに含まれる葉緑素(クロロフィル)という物質です。この葉緑素は、太陽光の中の緑以外の色を吸収して、光合成を行っています。つまり、葉っぱにとっては、緑以外の光(赤や青)が必要なのであって、緑だけは必要ないので外に返しているのです。外に見せている色と、内側で必要な色は反対だということです。葉っぱに限らず、自ら光っていないものは、何でもそうです。イチゴは赤い色をしていますが、それは赤以外の光を吸収しているからであって、イチゴにとって赤の光は必要ないのです。
自ら光っているものは、もちろんその色を出しています。赤のLEDは赤色を放射しています。自ら光っていないものは、自分自身からの光でなく、まわりからやってくる太陽の光や照明の光の中で、吸収しない光だけを反射することで、色を作り出しているのです。