- 2019.11.25
- INTERVIEW
知らないと損する新しい消費者行動
Vol.2:新消費者行動編
1985年、株式会社千趣会商品企画部に入社。1996年、手作りにてベルメゾンネットを立上げ。Web事業責任者として、当初は年間20万円であったネット売上を、13年後に700億円まで引き上げる。また大手百貨店Web事業責任者としてオムニチャネルの実現に参画。通販・店舗両面からの視点を持つ。
2018年、千趣会を退社しコンサルティングを含むマーケティング支援を行う「中山茂マーケティングデザイン株式会社」設立、現在に至る。
前編では企業のオムニチャネル対応の側面から現状をお話しましたが、後編ではネット社会によってユーザーの消費行動がどのように変化したかをお話しいたします。
消費者行動を進化させたネット技術
――ユーザーの消費者行動はいつから変化しはじめたのでしょうか
そうですね。ネット黎明期と言われる1990年代後半はまだ回線速度も遅くなおかつ回線料は高額、PCの性能もまだ低かったですし、そもそもスマホやタブレットはありませんでしたからまだネットそのものに慣れてゆく時代でしたね。ちなみに私が1996年にベルメゾンネットを立ち上げた当時はダイヤルアップでしたから通信速度は約56kbpsちょうどいち画面表示に30秒以内だと優秀と言われた時代でした。
そのためこの時代は使いこなそうとするユーザーと全く使わないユーザーとがまだ分かれていた時代なのでネットユーザーと既存ユーザーは消費者行動は別モノと認識されていました。
その後回線はADSLへて現在の光回線へ。通信速度もケモノ道から高速道路になったほどの高速化しました。進化速度の最盛期であった2005年あたりには今では死語になってしまいましたが「Web2.0」といった言葉で表現され、次世代の幕開けのようにもてはやされたものです。
――初代iPhoneが発売されたのが2007年ですからちょうどその頃ですね
そうですね、技術の進化スピードがピークの時期に登場したiPhoneをはじめとしたスマートフォンの登場がユーザー変化の大きな変化となりました。今までのパソコンはデスク上で使うものという概念から日常生活の傍らに手のひらサイズの同等の性能を持ったツールがあるわけですからまずリアルの生活が変わらないわけがありません。
消費者が変化する土壌としてこの環境の変化は大きかったです。24時間自分の傍らから
ネットを通じて自ら情報を探索し取得することができる
ようになりました。まず技術の進化、スマホの登場によって「情報の在り方」「情報量」「情報の質」が大きく変化したというのがまずは消費者行動変化の重要な「外的要因」ですね。
ユーザースキルの進化が世の中を変えた
――ではその外的要因から消費者はどういう影響を受けたのでしょうか
確かに技術の進化は目覚ましいものがありますが、実は一番進化したのは想定以上にネット社会に見事に適応してしまった「ユーザースキル」にあると思います。
ユーザースキルといっても単純にパソコンやスマホを扱えるというものではありません。ネットの発展により1996年の流通情報量が6万TBであったのに対し、2020年の情報量は73万倍の440億TBにもなると言われています。ちなみに1999年までに人類が30万年かけて蓄積してきた全情報量は1250万TBと言われていますのが、2001年から2003年までの蓄積情報量がそれに相当し、人類が30万年かけて貯蓄してきたすべての情報量をこの3年分で追い越してしまった形になります。情報社会と言葉には情報の流通量の要素も大きいのです。
――すさまじいデータ量ですね。私たちはそのような大量なデータの渦の中で生活しているわけですね
そうなんです、ところがその膨大な有益な情報の中には当然少なからず「間違った情報」「悪質な情報」「意図的に誤解を生む情報」が紛れ込んでいます。
いままではTVや新聞等、雑誌等からの情報は情報元さえ確認すれば上記のような悪質な情報を避けることができました。しかしネットの世界では巧妙に悪質な情報が紛れ込んでいます。こういったある意味「無法地帯」で誰も責任を持たない情報の渦にいままで制御されたマス情報を受ける立場であった一般の人がネット社会でどうなったでしょうか?
パソコン通信時代からネットに触れていた私は少し不安ではあったのですが、これが見事に一般ユーザーは適応してみせたのです。悪質な情報を野放しにしている環境を攻めることもせずひたすらに
「情報の真偽、善悪の判断は自己責任」
とさほどの混乱もなく自らの責任で情報の取捨選択を始めたのです。その時、私はまるで過保護に育てたと思っていたわが子が世間の荒波でも立派にひとり人立ちしているかのような感覚に陥りました(笑)。
――あまり意識はしていませんでしたが、確かにそうかもしれません
そしてさらにユーザーの立場を変化させたこととして大きなポイントは、今まで情報の受け手だった消費者が今度は
自ら情報を発信し拡散し始めた
ことと言えるでしょう。掲示板から始まり、ブログ、Twitter、Facebook、Instagram、TikTok・・・・今や影響度はマスメディア以上といっていいかもしれません。ちなみにこれらのツールを使った情報発信量の多さは日本人が世界の中でもTOPクラスだそうです。日本人って意外と情報発信に熱心な国民性だったのですね。
ここでのネット社会によって消費者が変革したポイントをまとめてみましょう
- 情報は与えられるものではなく自ら探して判断するものという考え方になった
- 膨大に膨れ上がった情報の中には間違っている情報があることも認識し、その判断は自己責任であることを自覚している
- さらに情報は受け取るだけではなく自ら発信しシェアすることでユーザーレベルでお互い補完し活用するようになった
――情報に関して個人がイニシアティブを持ち始めていますね
その通りです。もうボールは企業側にあるのではないのです。ユーザーが商品を開発するわけではありませんが、ユーザーが共感し本質的な欲求を満たしてくれる価値のある商品を育ててゆくのはユーザーそのものになってきています。
ここで価値をベースにしたユーザーの消費者行動の線を可視化してみましょう。私はこれを「連鎖する価値の線」と表現しています。
消費はユーザーの意志で動いている
<アナログ時代の価値の線>
アナログ時代では購買前の情報は企業側が「宣伝」という形でユーザーに伝えます。そしてユーザーは「店舗」に行って「決済」します。拡散はせいぜい口コミくらいですから、商品はこれで完結していたんです。
比較して情報ネット社会になった現在、消費者行動はどう変化したでしょう。
<ネット時代の価値の線>
まず情報収集の段階ですでに企業側の発信だけでなく「SNSなどでの自発的発信+自発的探索」でユーザー主体で情報がやりとりされています。それもいろいろなSNSツールで価値観単位でクラスターが発生し、自分の望む情報が集まってくるようになっています。
さらに情報の素材はテキストだけではなく画像、動画、音声など様々でありこの情報収集の段階自体が「楽しむ価値」となっており、企業はその場を提供することをユーザーから望まれます。
――確かに時代に敏感な企業はすでにSNS上に場を提供し始めていますね
この段階での情報は決して押し付けるものではなく「ユーザーが気持ちよく情報収集している道端にそっと置いておく」というさりげなさが必要です。あからさまなやり方をすると俗にいう「ステマ」の烙印を押されてしまいます。
そしてユーザー主体の情報収集後の決済ですが、オムニチャネル編でもお話しましたが、その時便利でお得であればリアル店舗購入であろうが、ネット購入であろうが消費者にとってどちらでもよいのです。純粋に気持ちよく「探しやすいか」「買いやすいか」という点に集約されていることをもっと企業は意識しなければなりませんね。
――連鎖する価値の線で見ると「購買・決済」は消費行動において単なる通過点のようですね
まさにその通りです。「連鎖する」という意味は他の同じ嗜好のユーザーにも受け継がれる価値とも言えますね。そして購入後の消費行動がネット社会の大きなアドバンテージでもあるのです。
情報収集でもエンジョイし、気持ちよく(リアル、ネットに関わらず)購入し、そして実際に使用したユーザーは、その商品の良さに感動した時には商品そのものだけではなく自ら辿ってきた消費行動も含めて「自分にとってのよい価値」と捉えます。そしてその感動した価値を自ら発信するファンになってゆくのです。
――でも一般的には「価値」といえば「商品価値」を指していると思ってましたが
ここで何故「よい商品」といわずに「よい価値」と表現したかといえば、表面的には手に入れた商品に対して対価を払っているわけですが、価値という視点ではその商品によって得られた「気持ち」そのものが対価に値する本当の価値になるわけです。その商品を購入して使用した結果
「すごく便利だった」
「お洒落な服を着たデートは楽しかった」
「家族みんなで食べて美味しかった
「部屋が片付いてすっきりした」
「お洒落なカフェでお茶してるよ!みんな見て見て!」
などなど本当の価値はその気持ちにあってそれに対価を払っているのです。
ですからSNSなどで拡散される写真など見ているとわかるのですが、商品そのものを商品カタログ写真のように置き撮りとかの写真はありませんよね。笑顔で一緒に写っていたり、美味しそうだったり、素敵なコーディネイトだったり・・・・ユーザー気持ちが反映された本質的価値である画像や動画が拡散され評価されるのです。
企業が制作しようとするとこういった空気感は出せません。膨大な費用とハイクオリティのロケ撮影が必要となります。一般的に同じテーマに対して企業側が発信する情報とユーザーが発信する情報量の比率は「1:18,000」と言われています。それほどネット上のユーザー発信上法はパワフルなわけです。
木を見て森を見ない企業
――こういった価値の線の中で企業が気を付けなければならないポイントはなんでしょうか
まず見た目の数字に惑わされないことですね。ここでもうひとつ現状をミスリードさせてしまう数字をご紹介しましょう。これも多くの企業で使用されているのですが「EC化率」という指数です。EC化率は他の全体の売上げに対するEC決済の売上げ比率を表し言葉お通りどこまでECの進出率を計る指数として使われています。
ところがこの数字はあくまで購買行動の中の「決済」のタイミングでしか数字を取っていません。前段でもお話した通り「購買・決済」は消費行動の単なる通過点にしか過ぎないんですよ。これを数字で表してしまうと「小売りにおけるネットの割合は6%程度なんだ」と思ってしまいます。
――実際に数字を見るとそう思っていました。20年前にはほぼゼロだったことからすると凄いことなんでしょうけど
確かに本当にここ20年のお話なんですが、実際の影響度はこんなもんじゃありません。では決済時のみの数字で判断することが危険である具体例をひとつあげるとすると以下のような行動パターンですね。
<行動パターン1>
- ネット上で他社サイトと比較しながら検討。商品の購入を決断。
- 実物を見てから最終判断をしたいので通勤途上の店舗で確認しその場で購入
→お店のレジを通して決済・・・・店舗の売上げに計上
<行動パターン2>
- 店舗に行って店員にもアドバイスをもらい試着してサイズと色を確認。
- ほぼ購入を決めたがその場で最終購入判断ができなかったため帰宅
- 帰宅して購入を決断。ネットにて注文(試着もしているので迷いなし)
→ネットにて決済・・・・・ネットの売上げに計上
パターン1では決済こそ店舗ですが、購買意志を決定づけた功労者はネット情報ですし、パターン2はその逆で決済はネットですが、功労者は店舗であったりします。
「販売・決済」という場に囚われない感覚が必要
――購買決定と実際の決済がクロスしてしまっていますね
ところが企業側は決済数字して見ていませんよね。このように消費行動を全体の流れでみなければならないはずなのに「EC化率」という言葉がさらにECを別のモノというミスリードを招く原因にもなっているのです。
ですので、たとえすべてのチャネルでの売上げ数字を統括できる組織体制になったとしても「EC化率」を誤解したままマーケティング活動をしてしまうと大きなロスを起こしてしまいます。現在物品を中心とした小売り全体のEC化率は6%強ですが、購買への影響力は決して6%ではありません。むしろ実際は「50:50」と言っていいのではないでしょうか。
このように「情報収集」「選択」「購買」「使用」「拡散・シェア」という「連鎖する価値の線」全体が新しい消費行動になりますので前編で「ECサイトをやっていなくても十分オムニチャネルになりえます」と少し極端に言い切ったのはロジック的にはこういうことなんです。
――あ、あの時はさらっと流してしまいましたがユーザー視点からみるとオムニチャネルがやっと繋がりました。それでは最後に前編、後編のまとめをお願いします
ひとことでまとめるのは少々難しいのですが、あえて言うなら
「決済・購買」だけでなく「連鎖する価値の線」においてのタッチポイントで価値を提供できるのがオムニチャネルでありそしてすべてのタッチポイントにおいて
「この時お客様は何を望んでいてどうすると喜んでもらえるのだろう」
「自分たちだからこそできることは何だろう」
と常にユーザーの価値観に対して理解を深め、企業はそれに寄り添うように対応してゆくべきだと思います。答えはひとつではありません。企業の数だけ提供できる強みもありユーザーの求める解も個々すべて違います。「連鎖する価値の線」全体で企業として何ができるのか経営者だけでなく会社の全部署、全社員でお客様の視点をもって是非深掘りしてみてください。
==中山氏がノウハウをお伝えします!==