株式会社FELLOWS

代表取締役・CEO 島田 洋一郎さん

 

日本を訪れる外国人観光客にとって「食」は大きな楽しみとなっていますが、イスラム圏の人たちの前には「ハラル」という問題が立ちはだかっています。そうしたなか、彼らのもどかしさを解消するため、2014年、浅草・浅草寺の近くに本格的なハラル対応のラーメン店「成田屋」をオープンしたのが島田洋一郎さん。なんとマレーシアのジョホールバルから“逆上陸”という異色の店舗でもあります。充実したメニューと行き届いたサービスは口コミなどで評判が広まり、いまや行列ができるほどの人気店に。京都祇園、大阪ミナミの一等地にも店舗を構え、同店の成功例はたびたびマスコミでも紹介されています。島田さんと、メインシェフを務めるマレーシア・ペナン島出身のモハマド・アスリ・ビン・ハマトさんにお話を伺いました。

 

マレーシアでの経験を生かし日本で開店

震災中にムスリムの人と出会ったのがきっかけで、ハラルの飲食店をやろうと考えた島田さんがマレーシアでの出店を決めたのは、「日本人がまだ誰もハラル認証を取得していない、ハードルが高い地で勉強しよう」との思いから。現地で学んだのは約3年。日本食の店は好評を得たものの、なかなかハラル認証は取れませんでした。もっとも、それは店自体の問題というより、マレーシアのお国柄が影響していたようで――。「審査が厳しいという面もありますが、関係機関が書類を紛失してしまったり、監査日に限って従業員のムスリムの子たちが全員遅刻してしまったり(笑)」と振り返ります。こうした日本では考えられない事態と冷静に向き合っていくことも、海外展開の難しさの一つかもしれません。

 

「ハラル自体、単に食べ物だけの話ではなく、彼らにとってはバイブルでもあることを実感しました」

 

マレーシアでの貴重な体験をもとに、2013年、まずはマレーシア料理の店を始め、翌年、満を持して浅草へ進出しました。オープンにあたっては、コミュニケーション能力が非常に高く、多くのリピーターを有するアスリさんの存在が大きかったといいます。マレーシアで学んだ日本人の島田さんと、日本事情にも詳しいマレーシア人のアスリさんの両輪がうまく噛みあったことで、顧客の約9割がムスリムとはいえ、日本人にも満足してもらえる味を実現。また、ハラルの材料は割高なコストが難点なのですが、「いいものをなるべく安く提供したい」と、自分たちで製麺工場まで作るなど常に企業努力を欠かしません。

 

メニューは主力のラーメン以外にも、カレー、丼もの、餃子、唐揚げなどが揃っています。アスリさんがお客さんの要望に対応していくうち、どんどん増えていったとのこと。少ないスタッフで切り盛りするなか、東京在住のムスリム向けなどに弁当の注文にも応じています。根底にあるのはサービス精神でしょう。

 

アスリさんは「たとえば1週間分の弁当のオーダーが入ったら、リクエストを聞きつつ、毎日、中身を変えています。向こうのガイドブックには日本で『豚』という文字があったら要注意と載っているのですよ。うちはハラル認証を得ている100%安心な店」と胸を張ります。

 

 

分からないことは聞いて相互理解を

取材中、2階にある客席と仕切られたスペースから従業員の女性が出てきました。この店ではスタッフが全員ムスリムということもあり、礼拝室を設けているのです。家賃が高い都心で利益に直結しないスペースを割くのは大変なこと。島田さんは「どうせなら他ではマネのできないサービスをと考え、お店のオープン時に作りました。しかも、その後、使い勝手が悪かった部分をリニューアルまでしたのですよ」と話しますが、まだオリンピックの話題が注目されていなかった2014年の時点で礼拝室を設置していた飲食店は、極めて少なかったように思います。これもマレーシアでの体験が反映されたケースといえるでしょう。

 

最後にインバウンドビジネス、その中でもムスリム対応を成功させるポイントと今後の目標をお聞きしました。

 

「アウトバウンドは日本のためになると思うので、もっと積極的に海外に飛び出してみるといいのでは。学ぶことはたくさんあります。マレーシアでは苦労もありましたが、日本人というだけでみんなが助けてくれました。彼らとは今でもいい関係が続いています。イスラム教と聞くと身構えてしまう日本人が少なくないのですが、彼らはとても異文化に寛容でフレンドリーな人たちです。アスリさんたちとマレーシアで食事をしたときは、同じテーブルを囲みながら、(豚肉料理の)バクテーとビールを味わうこともできました。こうした食事の席でのマナーやルールもそうですが、大事なのは、分からなければ何でも質問すること。私の場合、フライパンの使い方ひとつ、とにかく聞きまくりました。こうしてお互いの文化について聞きあうほうが楽ですし、間違いもありません。今後の目標は、これからも『健康』をモットーに、もっと店舗を増やすことです。今の店についても、さらにメニューを増やしたいのですが厨房が手狭なのが悩みで……」

 

茨城出身の島田さんは、地元の大学生をバイトで採用しており、若い世代の異文化コミュニケーションにも一役買っています。製麺工場を稼働させることができたのも、地元の協力があってこそ。茨城との縁、マレーシアとの縁が、新たなビジネスの広がりにつながっていくのではないでしょうか。

 

 

取材協力

成田屋(浅草本店)

東京都台東区浅草2-7-13 西参道商店街内

03-4825-9806

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