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エクイティ(公平性)とは?D&Iから「DE&I」で働き続けたい企業へ
企業のダイバーシティ経営において、従来では多様性と包括性の推進を意味する「D&I」が欠かせない指標となっていました。
しかし、多様な人材を招くにあたって不均衡が生じる懸念があったことから「エクイティ(公平性)」が注目され、近年ではこの概念を加えた「DE&I」の経営方針が推進されています。
そこで今回は、エクイティとDE&Iの概要から、エクイティの必要性、エクイティの導入方法、エクイティやDE&Iを導入する企業事例まで詳しく紹介します。「誰もが働きやすい会社にしたい」と考えている企業経営者・担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
エクイティとは?
エクイティ(Equity)とは、「公平性」を意味する英語であり、人それぞれ異なるスタート地点に着目して個々の社員に応じた支援を行うことです。
基本的に、組織には年齢や性別、さらに雇用形態やキャリア、国籍など異なるバックグラウンドをもつ多種多様な人材が働きます。
「すべての人材に一律の条件で支援を提供する」という考え方は平等ですが、個人の努力のみでは挽回できない差分が必ず発生するため公平とは言えません。
エクイティは、どのような状況に置かれている社員でも公平に活躍できる環境を整備するための重要な概念です。業種・業界・企業規模を問わず、事業拡大やガバナンス強化を目指す多くの企業から注目されています。
エクイティとイコーリティの違い
エクイティと混同されやすい概念としては、「イコーリティ(Equality)」が挙げられます。
前述の通り、エクイティは公平性を意味する言葉です。一方で、イコーリティは平等性を意味する言葉であり、一人ひとりが置かれている状況にかかわらず、すべての人材に同じ条件や機会を提供することを指します。
エクイティとイコーリティをより深く理解するためにも、近年注目されている「生理休暇」にもとづいて各概念の違いを考えてみましょう。
男性と女性の身体構造が異なる点に着目すると、女性の生理によるさまざまな不調はスタート地点でのマイナスと捉えられます。
こうした個々の状況の違いは視野に入れず、すべての社員に同条件の休暇制度を適用させることは、イコーリティの考え方となります。反対に、生理のない男性社員と生理がある女性社員が同じスタート地点で活躍できるよう生理休暇で調整することは、エクイティに該当します。
DE&Iとは?
エクイティは、企業の重要な経営指標となる「DE&I」の考え方の1つとなっています。
DE&Iは多様性を意味する「Diversity(ダイバーシティ)」と公平性を意味する「Equity(エクイティ)」、そして包括性を意味する「Inclusion(インクルージョン)」の頭文字を略した言葉です。
企業理念や経営指標に多様性・公平性・包括性を取り入れ、公平な環境でさまざまな人材が多様性を認めながら互いを尊重し合うという概念です。
●ダイバーシティ ダイバーシティは、多様性を意味する言葉です。年齢や性別はもちろん、価値観や国籍、障がいの有無といったさまざまな属性をもつ人々が、組織や集団の中で共存している状態を指します。 ●インクルージョン インクルージョンは、包括性を意味する言葉です。企業におけるすべての社員が尊重され、一人ひとりが特性や能力を発揮しながら活躍できている状態を示します。 |
D&Iからの変化
企業存続に向けては、かつて「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」の考え方が浸透していました。D&Iとは、個々の属性を尊重しながらすべての人材が活躍できる環境を整えるという考え方です。
もともとはアメリカで施行された「出身国や人種、性別などによるすべての差別を禁止する公民権法」によって生まれた概念であり、アメリカ企業では1960年代に広がったとされています。1980年代後半からは日本でもD&Iの考え方が浸透し始め、2010年以降では多くの日本企業がD&Iの推進に取り組むようになりました。
また、エクイティを含めたDE&Iは、D&Iから一歩進んだ概念として広がりつつあります。
DE&Iが注目される背景
従来のD&IではなくDE&Iが注目されるようになった背景としては、「平等にするだけでは解消できない格差の広まり」と「違いを認める価値観の重視」の2つが挙げられます。
人はそれぞれ生まれ育った環境が異なります。例えば、高所得層の家庭に生まれたAさんと低所得層の家庭に生まれたBさんがそれぞれ「一流大学に入学したい」という願望を抱いたとき、Aさんは学資援助などのサポートを受けられることが多いのに対し、Bさんはこうしたサポートを十分に受けられず、努力したくてもできない状況に置かれる場合もあります。
また、成功者は基本的に現状を「努力と実力の結果として得た現状」という考えをもち、成功できなかった方は「努力不足によって招いた現状」という考えをもつ傾向です。
ダイバーシティの推進によって、こうした個々の属性や価値観の違いはより浮き彫りとなりました。しかし、異なる属性や価値観の同化・差異化が広がることで、社会的格差はさらに加速すると考えられています。そのため、異なる属性や価値観を多様性として学習し、異なるバックボーンをもつ人々が公平に活躍できるエクイティの概念がより重要視されるようになりました。
エクイティはなぜ必要?
近年では「従来のD&Iからエクイティの概念を加えたDE&I」が注目されており、実際にスタートアップ企業・中小企業・大手企業などあらゆる規模の企業が導入を始めています。
ここからは、企業がエクイティを重視することによってどのようなメリットにつながるのかを詳しく説明します。DE&Iの推進を検討している企業の経営者・担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
イノベーションを創出できる
エクイティの重視によるメリットの1つが、イノベーションの創出です。
通常、イノベーションを起こすためには、これまで蓄積したノウハウを活かした革新的なアイデアが求められます。
ダイバーシティの推進によって多様な人材を受け入れ、エクイティとインクルージョンの推進によって一人ひとりが公平に活躍できる環境を構築することで、異なるバックグラウンドをもつ社員たちの間で多角的な視点での意見交換を活発に行えます。
活発な意見交換によってさまざまな知見が組み合わさることで、革新的なアイデアや新たなビジネスモデルが生まれる可能性が高まるでしょう。
従業員のモチベーションが上がる
人間が何を動機として行動を起こすのかなどを研究する心理学分野の1つに、「公平理論(エクイティ理論)」があります。公平理論とは、投入量に対して得られる報酬において、他者との不公平感が大きいほど公平に近づけるための行動をとるという考え方です。
従業員が「あの従業員は多くの仕事を与えられていないはずなのに、自分よりも給料が高い」と不公平感を覚えている状況では、公平性を保つために努力を怠る傾向にあります。また、事業者側に不信感を抱いた従業員の場合、会社を辞めてしまう可能性もゼロではありません。
しかし、エクイティの概念を加えたDE&Iを推進することで、属性を問わず活躍の機会が公平に与えられるほか、組織の公平感も高まります。
また、DE&Iの推進とともに、職場環境や業務内容、さらに評価制度を改めて整備することで、従業員のさらなるモチベーションの維持・向上を図れるでしょう。
優秀な人材を確保できる
すべての従業員が公平を保って働けるエクイティの推進にあたって、「一人ひとりの事情を考慮した働きやすい環境の整備」は欠かせません。
仕事と家事・育児・介護の両立や、家族の転勤といったライフステージの変化が生じても退職する必要のない柔軟な勤務環境を整えることで、優秀な人材の確保や離職防止にもつながります。
また、近年ではZ世代のDE&Iに対する関心も高まっています。少子高齢化の進行による労働人口の減少が叫ばれるなか、DE&Iの推進は人材不足を防ぐためにも重要な取り組みと言えるでしょう。
マイノリティ問題を改善できる
エクイティの推進は、社会におけるマイノリティ問題の改善に大きくつながります。
ビジネスの現場では、年齢や性別・ジェンダー、国籍といった属性の違いや、女性管理職、テレワーク社員といった働き方によって、マイノリティとなる従業員が少なからず存在します。
DE&Iを推進した企業には、「公平な環境のもと、それぞれの従業員が互いの多様性を認めながら尊重する」というイメージが定着します。マイノリティとなる従業員を含むすべての人材が安心して個性や能力を発揮しながら活躍できるようになり、人材の流出防止やモチベーションの維持・向上にもつながるでしょう。
不平等な結果への対策となる
企業がエクイティを推進することによって、これまで気付けなかった社内の不平等を解決できる可能性があります。
誰もがもつ心身の特性や能力、属性には必ず差が生じます。こうした差を無視して平等な条件の制度を提供しても、不平等な結果を招くことは容易に想像できるでしょう。
エクイティは、人それぞれ異なるスタート地点を調整するための重要な概念とも言えます。各従業員の差を理解し、その差を解消して公平性を保てる方法を都度取り入れることで、モチベーションやエンゲージメントの低下につながる不平等な結果の対策につながります。
企業がエクイティを導入するには?
従来のD&Iからエクイティを加えたDE&Iの推進は、従業員はもちろん、企業にとってもメリットの大きい取り組みです。しかし、エクイティの導入には綿密な経営戦略が必要となります。
ここからは、企業がスムーズにエクイティを導入するためのポイントを3つ紹介します。「DE&Iを推進するはずが、かえって人材を流出させる原因となってしまった」ということにならないよう、あらかじめおさえておきましょう。
職場環境を整備する
DE&Iの推進に向けてエクイティを導入する際は、一人ひとりが属性や能力を最大限に発揮できる職場環境の整備が不可欠です。
そして、職場環境を整備するためには、社内にDE&Iの考え方を浸透させるとともに、各従業員がどのような働き方を望むのかを把握しておかなければなりません。
エクイティを重視した職場環境の整備には、ワークライフバランスや働き方改革に向けた新たな勤務制度の充実や、職場のバリアフリー化などが例として挙げられます。ケースによっては、莫大なコストが発生します。金融機関での資金調達を検討する際は、職場環境の整備によってどのようなリターンがどれほど得られるのかもしっかりと考えておきましょう。
心理的安全性の高い職場作りをすすめる
DE&Iの促進に向けては、心理的安全性も欠かせない要素です。心理的安全性とは、「周りが自身の存在や意見を認めてくれる」という安心感を、組織内でどれほど共有できているかの度合いを指します。
心理的安全性が高い組織であれば、従業員は対人リスクを恐れることなく自らの意見を気兼ねなく発言できます。チーム全体のパフォーマンス向上に寄与するほか、DE&Iの醸成にもつながるでしょう。
エクイティの理解を進める
DE&Iやエクイティを企業全体で推進するためには、経営層だけでなく従業員の理解も必要です。
たとえ企業の成長につながる取り組みであっても、働き方に影響を及ぼすものであれば従業員は当然懸念します。
何も知らせないままエクイティを推進するのは従業員から不信感を抱かれる要因となるため、検討段階から積極的にエクイティに関する情報を発信したり、ダイバーシティやDE&Iに関する研修を実施したりしましょう。
エクイティやDE&Iを導入している企業
エクイティ導入を成功させるためには、実際にエクイティやDE&Iの推進に成功した企業の取り組みを参考にするのも一案です。
最後に、エクイティやDE&Iを導入している企業の事例5つを、実施背景や具体的な取り組みとともに詳しく紹介します。
ジョンソン・エンド・ジョンソン
製薬や医療機器、ヘルスケア関連製品を取り扱うジョンソン・エンド・ジョンソンでは、DE&Iを企業経営の重要な戦略と位置づけています。「We All Belong(私たちの居場所」という考え方にもとづき、各社員が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境の構築を進めています。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのDE&I推進に対する具体的な取り組みとしては、マネジメントによるコミットメント、各種制度の整備、社員による自発的なグループ形成(ERG)などが挙げられます。これらを全社員が日常の業務で実践しながら、企業の成長・ヘルスケアの進化を目指しています。
※出典:Johnson & Johnson「時代はD&IからDE&Iへ-公正性と平等の違いとは?」
※出典:Johnson & Johnson「DE&I(ダイバーシティ、エクイティ & インクルージョン)多様性を認め合う企業文化」
パナソニックホールディングス株式会社
日本の大手総合電機メーカーであるパナソニックホールディングス株式会社では、人的資本経営にかかわる重要な取り組みの一環として、DE&Iを推進しています。
ダイバーシティを「多様な属性をもつ社員一人ひとりが互いの属性を受け入れつつ、価値を見つけること」、エクイティを「機会の提供の公平性を追求すること」、そしてインクルージョンを「組織として活かし合うこと」と定義し、多様な人材がそれぞれの力を最大限発揮できる最も働きがいのある会社になることを目指しています。
パナソニックホールディングス株式会社が行うDE&Iの主な取り組みとしては、「グループDEIフォーラム」の開催やワークライフバランス・LGBTQ・ジェンダーの公平性の実現、さらに障がいのある社員や高年齢者の雇用が挙げられます。
※出典:パナソニック ホールディングス株式会社「「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」とは?」
※出典:パナソニック ホールディングス株式会社「私たちが目指す「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」とは?」
味の素グループ
うま味調味料が有名な日本の食品企業「味の素株式会社」を中心に形成された味の素グループでは、2008年から「公平性を考慮したD&I」を推進し、時間的制約のある女性を対象とした職場環境の整備や、全従業員を対象とした制度の拡充・働き方改革の実現を進めてきました。
しかし、それだけでは解決に結びつかない不平等・不自由さが意識され始めたのを機に、2023年4月には一人ひとりの状況やニーズに合わせた環境を提供すべく、既存のD&IからDE&Iにシフトしました。
D&Iの第1フェーズ・第2フェーズが終了し、DE&Iが始まる第3フェーズでは、「個々の置かれている状況に応じて成長機会を自由に選択できる環境の整備」を目指しています。なお、2027年~2030年に予定されている第4フェーズでは、すべての社員がDE&Iの目指す姿を体感・体現できる環境の構築も予定されています。
大橋運輸株式会社
愛知県瀬戸市・豊田市を拠点に、法人輸送から個人サービス事業まで幅広く提供する地域密着型の老舗運輸会社である「大橋運輸株式会社」は、ドライバー不足をはじめとしたさまざまな問題の解決を目的に、DE&Iへの積極的な取り組みを進めています。
主な取り組みとしては、ダイバーシティとインクルージョンを意識した人事制度や、子育てサポートを含むワークライフバランスの実現のほか、女性社員・障がい者・高齢者・外国籍労働者の活躍サポート、LGBTQへの理解などが挙げられます。
特に性的マイノリティにおいては経営者自らが知識を得ており、「LGBT成人式」や「プライドパレード」といったイベントにも積極的に取り組んでいることが特徴です。
NEC
通信機器やITサービスを中心に幅広く提供する大手総合電機メーカーである「NEC」では、DE&Iを「多様な人材が活躍できる、事業経営における成長戦略」として位置づけています。
年齢や性別、国籍、性的指向、障がいの有無などにかかわらず、ビジネス成長に向けて最大限の力を発揮できる環境を築いており、女性の活躍推進や障がい者雇用、心理的安全性の確保、LGBTQである従業員の公平な制度利用機会の提供をはじめとした取り組みを進めています。
また、NECが取り組んできた従来のD&Iでは「インクルージョンが発揮されて初めてダイバーシティ・エクイティに価値が生み出される」という考え方にもとづき、あえて「I&D」としていたことも特徴です。
まとめ
エクイティ(Equity/公平性)とは、企業の重要な経営指標となる「DE&I」の考え方の1つであり、一人ひとりに合わせた支援内容を行い、公平な土台をつくりあげることを指します。
どのような状況に置かれている社員でも公平に活躍できる環境を、企業側が整備することによって、イノベーションの創出・従業員のモチベーション向上・優秀な人材の確保などにつながります。
企業がエクイティやDE&Iをスムーズに導入するためには、職場環境の整備や心理的安全性の高い職場づくり、さらにエクイティの理解促進が欠かせません。企業の実例も参考にしながら、組織全体でエクイティの導入に取り組みましょう。
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