今回からは、様々な目的に応じたモーツァルト療法について紹介します。まずは、「集中力の向上」についてです。
モーツァルト療法は集中力を高めるうえで役立ちますが、それはなぜなのか、どのような曲が効果的なのかについて学習していきましょう。
大人も子供も、現代社会に生きる現代人は、やる気が低下し、集中力や意欲がわいてこないとよく言われます。この原因はいったいどこにあるのでしょうか。
一般的に、集中力の低下の原因は、人間関係のひずみや不安、失望、悲しみといった「精神的なストレス」と、働き過ぎや睡眠不足、昼夜逆転の生活などの、いわゆる「生理的ストレス」のふたつの要素が深く関わっています。このふたつのストレスが連続して増大すると、心の病気である心身症の予備軍が増える結果になり、そのまま放っておくと、ノイローゼになる危険性も高まります。
五感から入力される多くのストレス要因は、大脳に悪い影響を与え、大脳皮質で情報の処理が行われた後、両耳を結んだ中央に存在する視床下部にマイナスの影響を与えます。視床下部という部位には、自律神経の中枢があり、ストレスを感じると自律神経のひとつである交感神経が過敏に反応します。そして、好中球が増加して活性酸素が増え、この悪影響で体の粘膜面が障害を受けていきます。
こうした精神面での影響が継続的になると、気力や集中力が確実に低下してくるとともに、うつ病に進む場合もあります。厚生労働省の「患者調査」によれば、平成8年には、うつ病などの気分障害で医療機関を受診した患者数はおよそ43万人でした。それが、前回調査(平成23年)にはおよそ96万人に増え、平成26年ではおよそ112万人にのぼっています。平成8年と比べると約2.6倍に増えており、現代社会を生きる人々はうつ病のリスクが高まっているといえるでしょう。
人間の集中力が続くのは、1時間が限度です。それ以上は、脳が疲労してしまい、注意力も散漫になります。そういうときこそ、モーツァルトの音楽を活用しましょう。
モーツァルトの高周波の音楽は、間脳にある視床下部に作用する一方、延髄を刺激して副交感神経を活性化します。とりわけ、モーツァルトの音楽の中でも、およそ4,000ヘルツ以上の高周波の音は、集中力を向上させるうえで効果的であることもわかってきました。
このような特性を持ったモーツァルトの音楽には、たとえば以下のようなものがあります。
高周波の音楽は、延髄を刺激して副交感神経を活性化するため、集中力が向上します。
人間の身体は、およそ60兆個もの細胞から成り立っています。その中で、脳にはおよそ1000億もの神経細胞が集まっています。さまざまな感覚情報の処理や伝達がスムーズに行われるためには、神経細胞同士がきちんとその機能を果たし、故障なくはたらかなければなりません。そのためには、脳内のアミンと呼ばれる神経伝達物質が正常に分泌されることが重要です。
この脳内アミンには、ドーパミンとセロトニンという神経伝達物質の2つが重要です。これらの物質が阻害されると、集中力が低下すると言われているのです。
人間の大脳辺縁系を構成する部分には、集中力や意欲を司る中枢があります。一般的には、直接的に集中力を高める神経伝達物質は、ドーパミンであると考えられています。特に、集中した状態の大脳の前頭連合野という部位には、ドーパミンが多量に存在することがわかっています。またその一方で、脳が休んでいるときには、セロトニンが多くなっています。この観点から、脳を活発にするのがドーパミン、脳をリラックスさせるのがセロトニンといえるでしょう。
したがって、ドーパミンとセロトニンの関係は、自律神経の交感神経と副交感神経の関係によく似ています。ドーパミンは確かに集中力を高めますが、もし活動が連続的に生じて、ドーパミンが過剰に分泌されると、興奮しやすくなり、キレやすくなってきます。そのために、活動しすぎた脳を休めたり、リラックスを導くセロトニンの適した分泌が必要になります。集中力が持続する短い時間で、ある物事だけを考えたり、専念する力を発揮させるためには、瞬発力が必要でしょう。この観点で、集中する前にはセロトニンが必要なのです。
そして、音楽療法を行うことは、コルチゾールというストレスホルモンの分泌を抑えることにつながります。とくに、およそ4,000ヘルツ以上の高周波の音は、脳内のセロトニン分泌や脳内モルヒネという物質も増加して、やる気や集中力、快感などを覚えることができるようになるといわれているのです。