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医学的に見る音楽療法

KNOW-HOW

 前回までは、モーツァルトの音楽が健康に与える影響を紹介しました。今回は、そもそも音楽療法とは何なのか、どのように医学に応用されているかについて説明していきます。

 

 

音楽療法とは

 

 音楽療法は、その名前が示すように、音楽の力によって人間のいろいろな病気を改善させたり治療する、あるいは病気を予防する方法の一つです。テラピーの一種であるために、病気を改善させたり治すという明確な意識と目的をもって実施されるものであり、娯楽の要素が強い音楽鑑賞とは質を異にしています。実際に、音楽療法は医学の現場でも導入されており、その効果は広く認知されています。

 

 

 音楽療法には、音楽を100%耳から聴き入るという受動的(静的)音楽療法と、楽器を演奏したり歌を唄ったりする能動的(動的)音楽療法の2つのタイプがありますが、前者の方法は、音楽の特性だけに依存して実施されるので、100%音楽療法と位置づけられます。
 一方、後者の方法は口を動かしたり手指や身体を動かすという要素が音楽要素に加わるために、ある意味では運動音楽療法になります。それぞれ長所や役割があるので、患者さんのニーズに応じてうまく組み合わせることが大切です。

 

 

 さて、音楽療法の基本的な姿勢で重要なことは、東洋医学的な発想と同じく、病む部位を診るのではなく、病む人全体を診るという、全人的(ホリスティック)な考え方をとることです。西洋医学では、病む部位が治ればそれで終わりとなりますが、音楽療法では、精神的なケアも含めて、その人全体をどうケアするかを真剣に考えていきます。

 

 

 

医学的分野への4つの応用

 

 今日、音楽療法がいかなる医学的分野で応用されているかについて考えてみると、およそ4つの活用法があります。

 

 

 第一には、心身医療への応用です。心身医療の中でも、とりわけ、胃潰瘍、高血圧、気管支喘息、円形脱毛症、神経性皮膚炎などの改善において、あるいは自閉症の改善を図るような場面で、音楽療法がプラスの波及効果をもっています。

 

 

 第二として、緩和医療への応用があります。音楽療法には、痛みの緩和効果や精神的な癒し効果があるために、患者さんの痛み、不安、恐怖を緩和させたり、家族や仲間との会話を促進させたり、さらに生きる希望を高め、精神を安定化させたり、あるいは化学療法への不安を解消させたりすることができます。

 たとえば、がん患者さんは痛みや不安あるいは死の恐怖との闘いがありますが、音楽療法によって、身体的な痛みを和らげたり、暗く閉ざされた心を開かせることもでき、精神的な鬱状態や情緒不安定を改善させたりもできるのです。加えて、免疫力が低下した状態を改善して、がん細胞を攻撃する力を高め延命を図ることも可能になってきました。このように、患者さんの残された人生を充実させて、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を高めることができるという点で、音楽療法は大きな貢献をしているのです。

 

 

 

 

 

 

 さらに、第三として、人間のホルモン系を正常化するはたらきが認められています。音楽は人間の、とくに内分泌系というホルモンを分泌するシステムにも影響を及ぼしています。効果的な音楽を導入して、ホルモン分泌の異常な部位を改善させていくのです。

 たとえば、音楽によって脳波リズムや心拍を安定させる、あるいは脈拍や血圧を安定させるといった効果が期待できるので、今日では生活習慣病の改善に導入されています。また、心拍や脈拍が音楽によって安定化するので、外科手術の際にも音楽療法が導入され、輸血量を減少させています。さらに、音楽の痛み緩和効果を期待して、手術時に用いる麻酔薬の量を減らす試みもなされています。

 

 

 第四に脳神経系障害の克服に対しても音楽療法が活用されています。音楽という音の情報は、直接的に大脳皮質、大脳新皮質、間脳など、脳の高次の中枢に伝えられるので、そこに障害をもつ人に対しても改善効果を発揮するのです。

 たとえば、認知症の場合、物忘れの現象が生じてきますが、この脳の記憶を司る機能の低下を音楽療法で改善させられるということが報告されています。音楽によって、大脳のシナプスと呼ばれる神経伝達回路に効率的にエネルギーを与えると、記憶を担う海馬という脳の一部の機能が回復してくるのです。一方、アルツハイマー型認知症といって、βアミロイドという異常蛋白質が記憶を司る脳の部分に蓄積するために、大脳皮質の組織に変性や萎縮が発生して、物忘れが生じたり歩行運動に異常をきたしたり、あるいは認知能力が低下するようなタイプの痴呆症もあります。このタイプの症状が音楽療法で改善するという報告もあるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 以上のように、音楽療法の医学的な意義は、およそ4つに分類されますが、そのほかにも、難聴や耳鳴りの改善、免疫力を増強して感染症に対する抵抗力を高める効果も認められています。

 

 

まとめ

 

  • 音楽療法によって、肉体や精神の病気を改善・予防することができ、その効果は医学的にも認められている。

 

  • 音楽療法では、痛みの緩和や精神的な癒し、ホルモン系の正常化や脳神経障害の克服といった効果も認められている。

 

次回は、どのような状態を「健康」と定義するのか、体内のどのようなはたらきで「健康」は作り出されているのかについて学習します。音楽療法を学ぶうえでの基本となる部分ですので、抑えておきましょう。

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