モーツァルトは1756年、オーストリアのザルツブルグに生まれました。5歳のときから作曲を行い、8歳になるとシンフォニーを書いたと言われています。この偉大な作曲家は1791年、わずか35歳の若さで生涯を終えましたが、この短い一生涯の中で、626曲以上もの名曲を残しました。
今日、彼によって作曲された数多くの音楽は、音楽療法の中でも応用されています。彼の音楽によって生まれる効果は、「モーツァルト効果」と呼ばれています。
一般的に、「モーツァルト効果:Mozart effect」といわれていることばは、音楽を健康あるいは教育に取り入れる研究を長年に渡って行っている、アメリカのドン・キャンベル氏によって提唱されたことばです。トマティス理論に基づき、モーツァルトの音楽を聴くことによって、精神と身体の両面の健康を維持させたり病気を改善させる音楽療法の一つと考えられます。
今日よく知られたモーツァルト効果と呼ばれる作用は、いくつかありますが、その中でも、
①日々の生活の中で創造力や想像力を育てる作用があること
②会話におけるヒアリング能力を高めること
③不安やストレスを減少させる作用があること
④記憶力を高め、認知症を改善させること
⑤精神的な安心感を誘導し、幸福感を高めること
⑥心臓の作用を安定化させ、心拍の安定化を図ること
⑦血圧を安定にすること
⑧脳波をリラックス状態に導き、アルファ波を引き起こすこと
⑨ストレスホルモンを減少させる作用があること
⑩免疫力を高め、健康を導くこと
⑪エンドルフィンの分泌を促し痛みの緩和効果をもたらすこと
などが報告されています。
第1回でも述べたように、音楽にはさまざまな特性があります。その特性の中で、モーツァルトの音楽には3,500~4,500ヘルツという高周波音と、実に透明感にあふれる純粋なゆらぎがバランスよく豊富に含まれています。この2つの特性に加え、倍音も豊富なため、曲によっては15,000ヘルツ以上の高周波音も豊富に見られます。
これらの音楽特性は、バッハやヘンデル、ハイドンあるいはベートーベンなど、他の古典派の作曲家が作った音楽と比較しても、非常に優れているのです。
このようなモーツァルトの音楽がもつ特性にいち早く気づいたのは、フランスの耳鼻咽喉科医であるアルフレッド・A・トマティスでした。博士は、モーツァルトの音楽には、人間の自律神経を覚醒させ、脳を刺激して身体の緊張をほぐし、感覚機能を安定化させる作用のあることなどを見出しています。
トマティス博士は、耳から入力される音の周波数と、人間の脳から脊椎にある各骨格部位とが対応していることも見出しています。例えば、延髄より上の高次の脳神経系は、およそ4,000ヘルツ以上の高周波音に対応し、頸椎は2,000から3,000ヘルツ、また胸椎は800から2,000ヘルツ、腰椎から仙椎は125から800ヘルツという周波数に対応しているのです。したがって、低い音は尾てい骨から始まり、音域が高くなっていくにしたがい背骨を上昇し、高周波音は首から上の頭蓋骨へと響いていくことになります。
モーツァルトの名曲の中で、特にバイオリン曲やオーボエ曲、あるいはピアノ曲などは、およそ3,500ヘルツ以上の高周波音を豊富に含んでいるので、延髄から大脳にかけての高次の脳神経系が刺激されます。この結果、モーツァルトの音楽は健康を支えている脳神経系、ホルモン系、血液循環系そして免疫系へとプラスの影響を及ぼしていくのです。
しかし、モーツァルトの音楽が与える効果は、これだけではありません。
動物学的には、ラットにモーツァルト音楽を聴かせると迷路実験でより早く出口を見つけられるようになること、牛舎でモーツァルトの音楽を流すと、ホルスタインのミルクの出がよくなることなどが報告されています。
一方、植物学的には、プチトマトを栽培する温室の中で音楽を流すと、甘みが増すこと、さらにカイワレダイコンの場合には収穫量が高まることも知られています。他にも、酒蔵でモーツァルトの音楽を流すと、日本酒の熟成が早まり醸造期間が短縮されたという事例もみられます。
このように、モーツァルトの音楽は、耳という聴覚器官を持たない植物や微生物にまでも影響するのです。動物も植物も、細胞という一つのユニットから構成され、その75%から90%は水で占められています。したがって、細胞レベルにおいても、モーツァルトの音楽が持つ音の振動は、細胞内の水環境に対しても直接空気の波動として作用し、プラスの波及効果を示したと考えられます。音が波動として耳から伝わって感受するのは脳神経系ですが、実際は、生命体を構成するすべての細胞内の水にも影響しているのです。