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創考喜楽

2011.11.21
INTERVIEW

CREATIVITY & INNOVATION is Coming!イノベーションってなんだっけ!?


世界不況に煽られて沈鬱する国内景気。“売れない時代”に苦慮する一方で、アジア諸国の隆盛とグローバル化の流れが、避けられない変化となって日本企業を翻弄する。「変化」に対応すべくは「変化」の力。
こうした状況を打破するために、多くの企業で、「イノベーション」の必要性がにわかに叫ばれ始めた。
——しかし。イノベーションとはなにか、イノベーションを起こすにはどうしたらよいのか、その本質についての理解は乏しい。イノベーションは変革であり、変革は諸刃の剣である。使い方を誤れば、自身の首を絞める結果ともなりかねない。
そこで、日本にイノベーションの考えを持ち込んだ第一人者の米倉氏と、その弟子であり、世界各国を渡り歩いてきた清水氏に、この武器を正しく振るうための方法を聞いた。

 

イノベーションとは?

――イノベーションとはそもそも何なのでしょう?

 

米倉:イノベーションって今ではさまざまな意味で使われていますけど、最初は「技術革新」と訳されたわけです。しかし、そのうちに、いやそれだけでもないなと。
プロセスのイノベーションもあるし、マーケットの発見もある。組織のイノベーションもある。さらに、ソーシャル・イノベーションといって、社会的な問題をビジネスの力を借りて解決しようというのもある。福祉などを国とか税金に頼らないでやろうという形でね。
もうイノベーションの地平はどんどん広がってきたと思う。これはとてもいいことだと思っているのですけども、経済的な側面の大きなジャンプを推進するっていうところもやっぱり忘れてはいけないね。そのあたりは、清水君は実に強調していると思うのですが、どうですか。

 

清水:僕もソーシャル・イノベーションのようなものも大切だとは思います。けれど、今の日本企業を見ていると、価値作りがどうも上手くいっていないというのが問題ですね。イノベーションの定義の中では、新しい経済的な付加価値を作るという点がとても重要でしょう。これがなければ、やはりイノベーションではないですよ。例えば、日本の一人あたり労働の生産性が落ちてきている。今のところ僕たちは資本主義の中で生きているわけですから、企業のイノベーションが我々の社会を動かす原動力なわけです。そこをまずはしっかりやることが大切だと思うのです。

 

米倉:そうだね。経済的な側面はやはり重要だね。アメリカ型が破綻したとか、アメリカ型の資本主義は終わったって言うけど、我々の生活を面白くしているものって、Googleにせよ、Facebookにせよ、iPhoneにしろ、残念ながらみんなアメリカから生まれたものなのですよ。
そういうことをすっかり忘れて、「いやぁ、アメリカ型なんかもう終わったよ」とか、「これから日本のなんとかが」とか言っても仕方ない。イノベーションってソーシャルで社会企業家が大事だって言う前に、やっぱり経済力をきちっと作るっていうのは確かに大事だと思うね。
まあ、それでも、清水君は教条的だから、ハードな感じのイノベーション以外イノベーションじゃない、なんて言っているのだけれど、僕は、「なんでもあるか。色々あるか」って、「あれもいい、これもいい」という気もするのだけどね。

 

 

清水:たとえば東北の復興を考えてみると、復興するのにお金がかかるわけです。でも、企業が収めている税金はかなり落ちています。日本の税収がですね。そのときに、真剣に、自分たちの本業のビジネスで国に貢献するのはとても大切です。まずは本業で大きな価値を創ってもらいたい。資本主義社会の原動力は、やはり企業が創るイノベーションですから。

 

米倉:そうだよね。日本の大手電気産業が、少なくとも自動車産業並みの利益率を上げていれば、80年代、90年代、税収は何10兆って増えてるわけですから。今37兆円なのよね。一時ピークのときの50何兆円からすると、20兆円近くヘコんでしまって、その20兆円が、今、国の借金の1000兆円の利子に使われている。だから、そのためにまた国債を発行しなきゃいけない赤字体質になる。やっぱり企業が利益をきちっと上げれば、それは減ると。でも、もう1000兆円過去に作ってしまったので、これは税金を使えないわけです。そうなってくると、今まで税金でやっていた保育所とか介護とか福祉とか、あるいは地方自治体のいろんな作業を、なるべく税金ではなくて、ビジネスの力を使ってやるという、ソーシャル・イノベーションが必要になる。これ、両輪だね。

 

清水:ソーシャル・イノベーションも、しっかりビジネスとして確立しますよね。たとえば宅配便だってまさにそうだったわけですよね。今では我々の生活に不可欠なインフラになっています。

 

米倉:そうだね。郵便局の代わりだもんね。

 

清水:それまで政府がやっていたことを民間に移して、こんなに大きなビジネスになっているわけです。

 

米倉:この間、ローソンの新浪さんと話していたのだけど、コンビニって、もうかなり社会のインフラになってるわけだよね。(大震災の後に)東北の町が復興するのに一番大きかったのは、まずコンビニが開くこと。そうすると、やっぱりそこに生活の基盤ができあがる。コンビニが開いた瞬間にね。

さらに、大事なのは、ローソンは非常に分権化されてるわけ。仙台に東北地区の本部がある。彼らが「これとこれとこれが必要だから、送れ」と情報を東京に即座に送るから、きめ細かなことが柔軟にできる。だけど、日本の多くの企業は、東京に集権的な体制をつくって、現地に何が必要だとか分析しようとする。でも、そんなの分かるわけないじゃない。だから復興庁なんかも仙台でも、相馬でも、そういう現地に置いて、それを中央がバックアップするっていう体制が必要だと思う。それがね、コンビニなんかはもうできているっていうのを聞いて、ああやっぱりそうかと。あれもソーシャルビジネスだと考えられるのだよね。宅急便とコンビニって、ある種日本の大発明で、アジアに今どんどん出ている。
そういうことを考えれば日本の福祉システムとか介護システムも素晴らしいのを作ったら、これはもうヨーロッパ、アジアに輸出できる。そういう構想力は大事だよね。

 

清水:2、3日前の新聞に、「日本の医療の技術は一番いいけど、満足度がすごく低い」なんて出ていましたけれど、こういうギャップっていうのはまさにチャンスですよね。

 

米倉:本当だね。そこで言うと、我々教師もそうなのだけども、学生を自分のカスタマーだと思っている教師、市民を自分のカスタマーだと思っている市役所、患者を自分のカスタマーだと思っている医者、それがまだまだ多くはない。カスタマーに最上のサービスを届けるっていう自覚、それがイノベーションだと思うのですよね。
仕事をこなすのではなくて、そこに付加価値をつけて、カスタマーのサティスファクションをあげるというパラダイムチェンジが起こっている人は、すごくいいことやっているね。

イノベーターの特徴?

――イノベーションを起こす方に共通することはありますか? あるとすればどのようなものになるのでしょう?

 

清水:これはたしかに皆さん、関心があるところですよね。

 

米倉:まず、思想、性格などについてはあまり関係ないよね。ある思想を持った人とか、ある性格を持った人がイノベーターになりやすいなんていうことはない。そういったことに縛られている人のほうが問題。

 

清水:経営学では、リーダーシップの研究は盛んに行われてきた分野のひとつです。1950年代から盛んに研究がされてきました。そこでは、高業績を上げるリーダーの行動の特徴を捉えようとしたのですよね。例えば、部下へ詳細で具体的な指示を与えるほうが良いのか、権限委譲をしたほうが良いのかとか、人間関係指向的なリーダーが良いのか、論理的分析的なリーダーが良いのかなど、いろいろ研究がされてきました。
そして、分かってきたのは、常に大きな成果を上げるようなリーダーシップやイノベーター像はないということなのです。どのようなリーダーシップが、成果を上げるのかは、かなり状況依存的なのです。
難しい問題ですね。まあ、でも強いて言えば、人を巻き込むような大きくて強いビジョンのようなものが共通点になりますかね。

 

米倉:そうだね。大きなビジョンをもってチャレンジすることが大切になってくる。あとは、環境はやっぱりあると思う。イノベーションが起きやすい環境と、なかなか起きにくい環境はある。例えば、シリコンバレーに典型的に見られたベンチャー・キャピタルは大切な役割を担った。失敗が許容され、チャレンジが促されるような環境が創られたわけだ。

 

清水:企業の中にその環境を整えてあげることこそ、マネジメントの重要な役割ですよね。チャレンジできるような仕組みさえあれば、あまり思想とか性格とかは関係ない。シリコンバレーではさまざまな人種がイノベーターになっているわけですから。

グローバルと日本

――清水さんは、シカゴやロンドン、オランダなど長い間、海外で生活されていましたが、好む好まざると怒涛のように押し寄せてくるグローバリゼーションの流れの中で感じる「日本のいいな、ヤバいな」ということなどありますか?

 

清水:んー。最初に思い浮かんだのが、移民の問題です。アメリカやイギリス、オランダにも多くの移民が暮らしています。彼らは多様性をもたらし、社会の活力となっているのですが、アメリカなどを見ていると、これから先、日本は大丈夫かなって思うことがあります。例えば、アメリカに移民したアジア系、中国や韓国、インドなどからの人たちは、自分の子どもにしっかりと教育するのです。
で、彼らの子どもが賢くなって、中学校、高校、大学と進み、良い成績をとるわけです。社会に出ても良いパフォーマンスをあげる。当然、出世します。
彼らが白人の上司にもなりますし、彼らによってポジションを奪われてしまう人もいます。そうなると、当然排斥運動のようなものが出てきてしまいます。“白人”であることのみがアイデンティティの拠り所になってしまったりするわけですよね。僕は、これが近い将来、日本でも起こってしまうのではないかと心配しています。

 

米倉:なるほど。

 

 

清水:移民という形でないにしても、労働力としてはすでに海外から多くの人が日本に入ってきています。
そこで大切になるのが教育です。教育が社会移動の大きな手段になれば良いのですが、問題もある。東大の学生の親の所得が一番高いというのは「ヤバい」です。私立の方が良い教育を提供しているというのは問題ですよ。これは親からの所得移転であり、日本である種の階層が固定化してきてしまいます。そうすると、アメリカで起こるようなことが起こる。で、僕ら日本人として、たとえば同じ日本人がその排斥運動をしているって、たぶん見ていられないですよ。きっとね。多様性をイノベーションにつなげていけるかどうかは、教育にかかています。

 

米倉:日本の自慢は、公立の学校システムがすごく良くて、お金がなくても偉くなれる、社会移動が可能だというところだったのですね。だから、公立学校の改革って本当に重要です。これはもうね、命を懸けてやらなければならないことで、やっぱり一番できる子が一番安くて一番いいシステムにいけるっていう風にしなくちゃいけないよね。

 

清水:米倉先生も海外が長かったですが、「日本のいいな!」ってありますか?

 

米倉:日本人の一人ひとりの優しさとか強さって、やっぱりちゃんと評価されるべきだと思う。例えば、今回の震災。ホームレスのおじさんが、3月11日に寒そうに駅で待っていた人に、「寒いから敷け」ってダンボールを持ってきてくれたって逸話があったけど、そんな国はたぶん日本しかないなと。大きな混乱になることなく、冷静だった。

 

米倉:だけど、そういう一人一人の優しさとか強さがあるのだけど、それが全体としての大きなパワーにならない。そこは問題だと思う。今若者たちは社会企業とかボランティアとか、すごく一生懸命なのです。だけど僕たち一緒にバングラデッシュに行ったときにね、日本からモノは持ってきて欲しくないと言われたのですよ。技術とナレッジを持ってきてほしいんだと。途上国に行くと、魚はもういいから魚の釣り方を教えてくれって言うのですよね。一人ひとりの力は強いのだから、あとは大きな構想力のようなものだよね。

 

清水:リーダーシップとか多様性のあり方のようなものは変わってきていますかね。

 

米倉:リーダーシップやロールモデルがもっと具体的になってくることが大切だと思う。例えば、今ではFacebookやTwitterとか、いろいろなメディアがある。
マスメディアだけの時代は完全に終わっているわけですよ。さっきも話に出たけど、ローソンの新浪さんのところには、震災の時に、現場から、「これ持ってきてくれ」とか「あれが足りない」とかいう情報がどんどんフランチャイズを通じて入ってくる。分権的なの。それで、地元のおじさんたちが「やっぱり自分たちが店を開けないと、この街はどうなっちゃうの」って言って、「店を開けたい」って伝えてくるの。本部は、「分かった。今からモノを送るから」って言うのだけど、運転手が嫌がるらしいんだ。被曝するかもしれないからって。そこで、社長が「じゃあ、俺が乗るから」って言うんだって。そう言われたらしょうがない。新浪さんを横に乗せて、最初の物資の輸送が再開したって。そういうリーダーシップとかやっぱりもっと知ってほしいよね。

 

米倉:多様性に関して、一番腹が立つのは就職活動。
就職活動の時期をどうするかって話でもめている。これまでのやり方を変えるといい人材が採れなくなるからって言ってるわけですよ。
「あんたたち!」と思いますよ。
この20年間、日本のGDPは30年前に逆戻りしているのですよ。ということは、いい人材が採れてないんですよ。だからやり方を変えないといけないのだけれど、良い人材が採れていると思い込んでいるのです。イノベーションの源泉は多様性です。会社はイノベーティブな人材を求むなんて言ってるけれど、やってることは全然違うのですよ。

 

清水:グローバルということで言えば、日本企業の海外進出はどうですかね。

 

米倉:今年の一月の正月の番組で面白かったのは、インドで流行っている商品を紹介したもの。インドは、テレビ番組の中でいきなりミュージカルになったりするでしょ。そのときにボリュームが倍になるリモコンが流行ってる。テレビを見ていて、普段ぺちゃくちゃ話していて、ミュージカルになった瞬間にボタン押すとパーンと大音量になるの。面白いでしょ。これを開発したのは韓国メーカーなのです。
その理由は、サムソンのボンベイ支店長は、もう12年かな、片道切符で(インドへ)来ているのですよ。子どもはもちろん、全部現地の学校に入れる。インドの経済社会の中で一定の地位を占めているのです。日本のメーカーは、(転勤してきた人が)着いた日から帰る日のことを考えている。子どもに対しても、すごくいろいろなことに接するチャンスがあるのに、お受験がとか言って、単身赴任したりする。
これでは、本当に現地に入り込んでいって、大切なニーズやウォンツを得ることはできないですよ。

 

米倉:先月にサムソンの中央研究所に行ってきたのです。日本人の間では、まだまだ韓国企業の技術力を軽視している人も少なくないと思うのです。でも、これはかつてアメリカのエレクトロニクスや自動車メーカーが、日本を見て、日本企業なんて技術力はなく、安価な製品をマーケティングだけで売り込んでると言っていたのと同じですよ。
でも、サムソンの中央研究所には、4500人いて、びっくりしたのは、ロシアやチェコ、ハンガリーの人材が多く働いているのですよ。数学ができるから。日本のエレクトロニクス企業の研究所で、ロシアやチェコ、ハンガリーの優秀な人材を登用して、競争させている企業ってあるのかなって思ってしまいます。
イノベーティブな人材がほしいと言いながら、すごくドメスティックな人材の調達をしているのですよね。それから驚いたのが、サムソンは横浜に350人の研究所を持っているのです。サムソンは日本からの撤退を表明しているのにですよ。日本の市場や日本企業から学ぶことはまだまだあると考えているわけです。すごいですよ。

 

米倉:でも日本でもスゴイと思えるような経営者も出てきています。TSUTAYAの増田さんも、フランフランの高島さんもMBOで上場廃止ですよ。一部の、我々のサクセスストーリーだと、一部上場までいったら「すごかったね」と考えられていたわけです。だけど、彼らにしてみたら、MBOをして世界で戦おうと考えているわけです。上場をもう一回するとしたら中国か香港でやろうというわけですよ。高島さんなんて、香港に家まで移してしまったわけだから。
本当のグローバリゼーションは、現地の人材で、現地のニーズを汲み上げて、そこで新しいビジネスを起こしていくことですよ。だから、現地で、すごく優秀な人材がいれば、もう当然東京本社の社長になるってい
うような、全く新しい世界が広がっているのですよね。

 

 
米倉:もう一つは先鋭化してはいないのですけれど、色々やってきて、教育に結構回帰しています。高校生、大学生、社会人などやってきていて、若者たちが大切だなって思うのです。アポロ11号のプロジェクトチームの平均年齢が20代だそうなのです。ケネディの月に行くぞっていう演説を聞いた若者たちが、MITに行き、スタンフォードに行き、そしてNASAに行ったのですよ。
日本を見てみると、大人たちが、大きな夢を語る。今の高校生ぐらいが、「じゃあ、自分は理科系に行って物理を極めて、大きなエネルギーをセーブできるような技術を創り出そう!」って本気で思えるようなものですよね。例えば、低音、いや、常温核融合を完成させるぞとかね。そういう夢を持って、みんなが進むことが大切で、これを先導しないといけないって思っているのです。
 
清水:イノベーションという観点からは、ボトルネックってすごく大切なのですよね。ボトルネックがどこにあるのかが明示化されればされるほど、そこに資源が投入されやすくなるのです。だから今は大きなチャンスですよね。でも、今、たとえば原子力発電所は、「いや、結構安全で大丈夫ですよ」なんて言って、ボトルネックをぼやかしちゃうとほんとにヤバいすよね。
 
米倉:本当にそう。ぼやかして「大丈夫だよ」とか、「今のままでいけるよ」って言ったら、誰もそういうイノベーションにチャレンジしないでしょ。だから、日本が先駆けて原発なんかやめて、分散化したいい国家を作って、やっぱり日本すごいねっていうようなことになるには、こう危機感を持って先鋭化しなきゃいけないと思っているのですよね。別に先鋭化してないんだけど(笑)。

クリエイティビティとイノベーションについて

――今回、清水先生の執筆、監修で『C R E A T I V I T Y &INNOVATION』という講座を開発しています。こちらはどのような内容で、また、どのような方に薦められますか?

 

清水:クリエイティビティは、イノベーションにとって必要条件ですよね。固定概念に縛られていては、なかなか新しいアイディアは出てこない。自分の思考をロックしているものをいかにして外すのかが大切になってきます。ただし、イノベーションは突飛なことをやれば良いっていうわけではない。きちんと経済的な価値を生まなくちゃいけないわけです。そして、イノベーションを見てみると、なんとなくパターンがあるのです。いくつか。これを理解したうえでイノベーションを起こしていこうとするのと、知らずに頑張るのとでは効率性は大きく違う。まったく型破りと無茶苦茶の差みたいなものですね。型を知って、基本を知っている方が、型破りが効果的にできるわけです。もちろん、無茶苦茶やったって当たることがあるかもしれませんが、次にもう一度当たるかどうかは運になってしまう。これでは効率性が悪いわけです。

 

米倉:なるほどね。大事だよね。将棋だって、やっぱり羽生さんだってすごくクリエイティブだけど、でもやっぱり過去の定石をすごく勉強してる。だからそういう点では、過去の棋譜を学んで、しかもそこにプラスでクリエイティビティをつけていく。過去の話を学んだら、歴史を学んだら、クリエイティビティって高まらないっていうのは大きな間違いで、確率を上げるっていうのはとても大切だよね。

あと、どうしてもイノベーションにしろ、クリエイティビティにしろ、新しいものであればあるほど、既存のシステムとの間に軋轢を生むよね。これはイノベーションを考える上でとても重要になってくる。だからこれはイノベーターになる人の話しだけじゃないね。組織にイノベーションを増やしていくためには、イノベーターになろうとする人を、その軋轢からどうやって守ってやれるかは大切だよね。だからぜひそのなりたい人だけじゃなくて、イノベーター達を育てたい人、クリエイター達を育てたい人達も、どうしたら良いのかを考えてもらいたい。

 

清水:そうですね。このテキストは一応若い人向けなのですけど、彼らを育てる側の人にもぜひとも読んでもらいたいですね。

 

米倉:そうだね、それは大事だね。受け入れる土壌というか、環境を作らないと結局若い人がイノベーションへと向かえない。その点でいうと、マネージャーの人たちは、少なくとも自分が若いとき嫌だったと思うことを、もうやらないで欲しいよね。自分が嫌だったことをそのまま同じようにやっている人、経営者とかね、上司で少なくないけど、彼らにはイノベーションがどのような土壌で起きてくるのかをもう一度、考えてほしい。

 

清水:そうですね。それと、最近の若者たちが変わってきているという話もありますよね。批判されることも多いですが、僕は結構良いかなって思っているのです。

 

米倉:確かに、クラスでも、わりと勝手なこと、言いたいことを言うし、やりたいこと勝手にやっている。でも、その中でお互い尊重して知識を学び合っていくよね。今までは、日本の授業では、先生の言ったことをそのまま受け入れるという姿勢が強かったわけですが、知識を創っていくというように少しずつ変化してきているね。(了)

プロフィール

米倉誠一郎(よねくら せいいちろう)
一橋大学イノベーション研究センター長
・教授
1953年生まれ。
一橋大学社会学部、経済学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了後、ハーバード大学にて歴史学の博士号を取得。ミシガン大学グローバル・リーダーシップ・プログラム・コアファカルティーを経て、95年、一橋大学商学部産業経営研究所教授。97年より、一橋大学イノベーション研究センター教授。専門は経営史。現在、日本の省エネルギー技術の経営史およびゲーム産業の生成について、イノベーションを中心とした戦略と組織の観点から研究中。

清水 洋(しみず ひろし)
一橋大学イノベーション研究センター
・准教授
1973年生まれ。
中央大学商学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程、ノースウェスタン大学大学院歴史学研究科修士課程修了後、ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにて経済史の博士号を取得。その後、アイントホーヘン工科大学(オランダ) ポストドクトラル・フェローを経て、08年一橋大学イノベーション研究センター専任講師。11年より同センター准教授。専門は経営史、経済史。現在、イノベーションと企業の競争力、産業の成長を分析中。

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