私たちの感情は、仕事そのものでも揺り動かされます。好きな仕事、やりたい仕事を手がけているときは、誰でも張り切るし機嫌がいいものです。少しぐらいミスがあったりうまくいかないときでも、意欲を失うことはありません。
しかし、嫌いな仕事、つまらないと感じる仕事はどうでしょうか。「こんな仕事に何の意味があるんだ」とか、「どうして私がやらなきゃいけないんだ」と考えます。「誰がやっても同じじゃないか」「評価の対象にもならない」「キャリアにもつながらない」と否定的な考えだけが浮かんできて、次第に嫌気が差してきます。感情が沈んでくるのです。
こういった問題は、問い詰めていけば「仕事って何だろう」とか、「働くってどういうことなんだろう」といった複雑な悩みを生んでしまいます。そこまでいかなくても、いまの職場や自分自身に対して不満を持つようになるため、感情生活全体がどんよりと曇ってくるのです。
ものすごく単純な考え方をすれば、「仕事は食べるため」というのがまずあります。食うためには収入がなければいけないし、収入は働かなければ得られない、だから仕事をするという考え方ですが、結論から言えば、いちばん説得力のあるのは、この「食べるため」という考え方なのです。皆さんも自分の仕事に悩みや不満、あるいは将来につながるのかという不安をもったときでも、最後は「食べるため」と割り切るはずです。「だって仕方ないじゃないか」と自分に言い聞かせ、頭の中のさまざまな迷いを振り払おうとするのではないでしょうか。
そこで、仕事の意味は深く考えない習慣を作ってください。出社すれば毎日、たくさんの仕事が待ち構えています。それを決められた期限までに、効率よく片付けていかなければいけません。「どんな意味があるんだ」とか「なぜ私が」と考えている暇はないのです。もちろん、普段の私たちはそういうことで悩んだりはしません。まさに悩んでいる暇がないからですが、嫌なことがあって気持ちが落ち込んでいるときや、トラブルを抱え込んだときには、どこからともなくそういった答の出ない疑問が浮かんできます。
感情が沈み込むと仕事の意味を考えて悩むようになります。その証拠に、感情がハツラツとしているときには、どんな嫌な仕事、つまらない仕事でも「さっさと終わらせよう」と考えます。「こんな仕事なんか」と思うなら、グズグズと悩むよりさっさと片付けてお酒でも飲んだほうがいいからです。
そこでどうせ考えるなら、仕事の意味ではなく「意義」を考えてください。ここで言う意味と意義の違いは、抽象的か具体的かというだけのことです。どんなに意味のない仕事に見えても、誰かがやらなければいけないし、それを待っている人、次の段取りに取り掛かる人がいるのですから意義はあります。それ以上のことは考える必要がありません。
日々の感情コントロールには、こういった現実的で具体的な答を出す習慣が大事になります。抽象的な悩みや不満に取りつかれても、どうせ解決できません。それよりは、具体的な答を出してそれを実行すること。「こんな仕事、さっさと終えて自分の時間を楽しもう」という結論だけが、感情を納得させるのです。
ひと言付け加えましょう。仕事や働くことの意味を考えるのは大切なことです。自分の人生や、家族がいる人なら家族も含めての将来を考える時間は必要です。けれどもそれを考えるためには、現実の仕事を割り切って片付けることが前提になります。目の前の仕事にグズグズする人が人生を考えても、答は出てこないでしょう。
私たちは毎朝家を出て職場で長い時間を過ごします。退社後の付き合いまで含めれば、日によっては十数時間も他人に囲まれて過ごすことになります。加えて仕事はハード、頭も神経も遣います。小さな不満や気がかりなことはいくつも生まれ、納得できない気持ちにしばしば陥ります。見た目は淡々と仕事をこなしているようでも、一日が平穏に終わることはめったにないのです。そういう日々がもし何年も続けば、たいていの人は精神的な疲労感に押しつぶされてしまいます。事実、ハードな職場ほど精神的な不調を訴える社員は多くなりますし、表面化しないだけで「ちょっと参っているな」と感じる社員は珍しくありません。
ただし、幸いなことに休日があります。一般的な土日休みの人であれば、週末の休日やゴールデンウィークや年末年始の休日があり、個人の休暇も含めれば、ほとんどの人が1年の3分の1は仕事に拘束されない一日を過ごすことができます。単純な言い方をすれば、3日に1日は休みなのです。ちょっと簡単な算数の計算をしてみましょう。
仮に1日の仕事時間が12時間、つまり24時間の半分は仕事に取られているとします。けれども年間の出社日数が1年の3分の2だとすれば×2分の1が年間の仕事時間ということになります。2/ 3×1/ 2=1/ 3です。仕事に追われるビジネスマンの感覚としては毎日、毎日、朝から晩まで仕事をしているような気がしますが、実は仕事は人生の3分の1の時間でしかないのです。
でも、そのことを実感できるビジネスマンはあまりいないはずです。これは無理もありません。眠っている時間は意識に上らない時間、目が覚めている時間は大半が仕事に取られているのですから、実感としては、1年の4分の3は仕事が頭から離れないように感じてしまいます。
日々の感情コントロールを考えたときに、仕事や職場は人生の3分の1に過ぎないんだという意識を持てるかどうかは、大事なポイントです。3分の1の世界でどんなに嫌なことがあっても、それは「小さなこと」なんだと言い聞かせることができるからです。家族や親しい人間と過ごす時間、好きなことや自分の楽しみのために費やす時間、一人で過ごすのんびりした時間、そういった大切な時間のほうがはるかに大きく広がっているのです。
あれほど頭を占めている仕事も人生の3分の1、それが客観的事実です。まして日常生活で出会う嫌なことは、百分の1、千分の1、いやもっともっと少ないでしょう。そんなものに感情をかき乱されるのはあまりにバカバカしいと気がついてください。