感情には「いい感情」と「悪い感情」があります。「いい感情」は私たちの仕事や人間関係に肯定的な気持ちをもたらしてくれますが、「悪い感情」はその逆です。仕事の安定感やパフォーマンスを低下させ、考え方や人間関係へも悪影響を与えます。言い方を変えれば、「悪い感情」さえコントロールできれば、私たちの毎日は大きく違ってくるはずです。そこで、本連載では、悪い感情をコントロールするための技術を紹介していきます。
今回は、どうすれば感情の若々しさを保つことができるかを、具体的に学んでいきます。
なぜ感情の若々しさが大切なのかと言えば、若々しい気持ちが悪い感情を追い払ってくれるからです。嬉しいときには素直に喜び、楽しいときには朗らかに笑い転げ、美しいものを見たり心打たれたときには感動して涙ぐむような人なら、たとえ一時の悪い感情につかまっても、そこからすぐに抜け出すことができます。
たとえば、あなたが輝いている瞬間を思い浮かべてください。面白い映画を見たり、好きな音楽を聴いたり、友人と会ったり、おいしいものを食べたり、街や公園を散歩しているときでも、さまざまな感情が湧き上がってきて、それを素直に受け入れることができるはずです。笑ったり泣いたり幸せな気持ちになったりウキウキしたり、まさに若々しい感情に満たされています。そういうときは、少しぐらい嫌なことがあってもすぐに忘れるし、嫌なこと自体があまり起こらないのです。なぜなら、感情が曇っているときなら気になるような他人の言葉や態度でも、ハツラツとした感情のときには気にならないからです。
また、行動的にもなります。ハツラツとした気分のときには、何かに出会えそうな予感や何かいいことがありそうな予感を持つので、人と会うこともどこかに出かけることも面倒に思いません。すると、出かけた先でまた刺激を受けます。楽しい話題で会話が弾んだり、興味深い話がきけたり、おいしいお酒が飲めたり、体が震えるほど感動したり興奮したり、たっぷりの刺激を受けてまた感情が若返るのです。あなたが輝いているのはそういう日々です。
感情を若返らせるために、まずはとても簡単なことから始めましょう。楽しいときには「楽しい」、嬉しいときには「嬉しい」、おいしいと思ったら「おいしい」、美しいと感じたら「きれい」、そういった自分の感情や感覚を短くていいですから言葉で表現するようにしてください。悪い感情はあえて言葉にしなくてもいいですが、幸せな気持ちになったときには素直に言葉に表わしてみましょう。たったこれだけのことでも、心の中に湧き起こった感情が解き放たれて気持ちが軽くなってきます。
もちろん、言葉にしなくても喜びは喜びです。楽しいときには愉快な気分になるし、おいしいものを食べれば幸せな気持ちになります。いまさら言葉にしなくてもわかり切っていると考えることもできます。しかしほとんどの場合、そういう人はふだんから感情表現を抑え気味です。たとえば、おいしいものを食べたときにも、「うん、おいしい」とは思ってもあえて言葉にしません。気持ちが落ち込んでいるときにはとくにそうです。楽しいときや嬉しいときでも、曖昧な笑顔を浮かべるだけになります。自分の感情を短い言葉で表現するというのは、少しも難しいことではありませんが、それをできる人とできない人がいます。この違いはとても大きいのです。
定年を迎えた男性が家に閉じこもり、三度の食事を無言で食べるというのは、妻にとって耐えられないことだとよく言われます。「気の利いたことまで言わなくてもいい。せめておいしいのひと言ぐらい欲しい」という気持ちがあるからです。この場合、男性の感情が老化していることが原因です。刺激に反応しなくなっているのです。でも、味がわからないはずはありません。好物の料理が並んだらおいしいと感じて当たり前です。そう感じたら素直に「おいしい」と口に出して言える男性が、自分の感情を揺り動かすことになります。妻も当然、うれしくなります。そこから和やかな会話が始まるでしょう。
つまり、自分の感情や感覚を言葉にすることで、その感情や感覚が揺り動かされてはっきりしたものになってくるのです。楽しいと感じたときに「楽しい!」と口にするだけで、もっと楽しくなってくるのです。それが相手に伝われば、楽しさはさらに膨らみます。言葉にしないで飲み込めば、楽しさもそれ以上は膨らみません。幸せな感情は何倍にも膨らんだほうが気持ちいいし、嫌な感情を吹き飛ばすことにもなります。
感情の老化は好奇心の衰えから始まります。「好奇心」という言葉を使ってしまうと、趣味や遊びの世界に限定されそうですが、仕事も勉強も家事もすべて、「こうすればどうなるんだろう」とか「このやり方ではダメなんだろうか」といった好奇心が変化を生み出してくれます。実際に試してみて「やっぱりダメか」とか「いけそうだぞ」といった感触が落胆や希望を生み出すのですから、感情の刺激という意味では、好奇心に従ってみることが大切です。その好奇心を最初から封じ込めてしまう人は、感情を発散するチャンスを失ってしまいます。
好奇心が弱くなってくると、プライベートな時間も次第に味気ないものになってきます。毎日、同じことの繰り返しだからです。ところが本人は、その味気なさにも慣れてしまいます。テレビやビデオを見る、インターネット検索であちこちのサイトを巡る、雑誌をパラパラめくる、といった時間の過ごし方でも、それなりに気は紛れるからです。ただし、感情発散ということで考えると、まったく物足りません。視覚情報は大脳新皮質を一時的に興奮させることはあっても、感情を揺さぶったり刺激することはないからです。たとえば、バラエティー番組を観て笑ったとしても、一瞬で消えてしまうはかない笑いです。大脳辺縁系の情動まで揺り動かされることはありません。
また、好奇心が弱くなると、プライベートな時間に何か大きな変化や刺激を持ち込むこともできません。いつもとまったく違う行動や体験に自分からブレーキをかけてしまうからです。「どうせつまらない」「どこへ行っても同じだ」と考えれば、自分から人と会ったり珍しい料理を食べたり、初めての店や街に足を向けたりする気にはなれません。たとえ「面白そうだな」とか「私もやってみたいな」と思うことがあっても、すぐに「どうせつまらない」という気持ちが出てきて、好奇心を封じ込めてしまいます。
本来、どんな人の脳も好奇心に満ち溢れています。それを封じ込めてしまう人は、自分の脳を欲求不満の状態に陥ってしまっていると言えます。小さなことでも興味を持ち、魅力を感じたときにはためらわず行動に移してみること、それが、感情の若々しさを失わないために大切なことなのです。
まとめ