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創考喜楽

#10 「あなたは本当に質問したいと思っていますか?」……相手のことを知りたいと思える人になろう!

COLUMN

ある会社で働いている3人と、たまたま対話をする機会があった。その3人の話し方が、まったく違っていて対照的だったという話をしてみたい。

 

私たちはお互いに知らないもの同士、1時間ほどコーヒーを飲みながら話しをした。Aさんは口数が少なく、ほとんど話さなかった。Bさんは本当によく話す人で、一番話していた。Cさんは口数は少なかったが、3~4回ほど質問をしてきた。
話を終えて帰宅後、私はふと3人との話が気になりはじめた。私が1番気になったのは、3~4回ほど質問をしてきたCさんのことだった。Aさんの記憶はほとんど残っていない。Aさんは発言をしなかったから、こちらに与える印象が薄かったのだ。Bさんはよく話していたのだが、私が聞きたいことよりも自分の話が中心であったように思う。
Cさんはそれほど話し方がうまくないのにもかかわらず、質問がシンプルで、見ず知らずの私に興味がなければしないような質問をしてきたのだった。
「工藤さんはどうして海外に行かれたのですか?」「工藤さんはどうして今、帰国されているのですか?」「工藤さんは何かやりたいことがありますか?」
このような質問に、はぐらかすわけにはいかず、私は真剣に答えることになった。

 

それから暫くして、その会社の人と会う機会があり、3人の様子を聞くことが出来た。
Aさんの評判は普通。Bさんは仕事はできるが、どうも回りとかみ合っていないという状態。Cさんは若い人から年配の人まで、人望が高いとのことだった。
それを聞いて、私は自分の感が当たったと思った。「相手に興味をもった質問をする」ことが出来ていたのは、Cさんだけだったからだ。Aさんのようにまったく発言しない人は、相手に覚えてはもらえない。一見話しを聞いているようでも、質問をしなければ話を聞いているということさえ相手に伝わらないのだ。仮に、人の話に同感しているとしても、うなずくだけでは足りない。自分の解釈や、意見を述べるべきなのである。
Bさんのようにのべつ幕なしに話すタイプは、自分はコミュニケーションが達者だと本人が勘違いしている場合が多い。問題は、自分のことしか話さないということにある。それは、相手のことに興味がないことと同じなのだ。通常、人は他人のことなど聞きたいとは思っていないのだから、そういう話をいくらしたところで、聞き手は面食らうだけで終わってしまうのである。Bさんの会社での評判は私にとってあまり驚くことではないが、話し終えた後に何だか疲れを感じてしまった。仕事はできるらしいのだが、周りとうまくやっていけないというのだから、自分本位はどうやら仕事でもプライベートでも同じらしい。
面白いのはCさんで、けっして話し方はうまくなかったのであるが、誠実な態度と、「相手のことを知りたい」という思いが伝わってきた。「相手のことを知りたい」と思えるのは、自分に自信があるという証拠である。自分に自信がなければ、自分の評価を上げるために、いかに自分がすばらしいかとか、自分の経験というような話しだけで終わってしまう。悲しいことに、人はそんなことに興味はないのである。

 

私は質問力の影響力を説いてきたし、これからもそうしていくだろう。その道程で、質問や論理の技術体系を教えてきたのだが、大切なことは、まずは「相手のことを知りたい」という心である。相手のことを知って、感心できる人間にならなければならない。知らないことを知ることになったら、驚く自分でなければならない。分からないことだらけの状態になったら、喜べる自分でなければならない。そういう人間がいて初めて、質問力は生きてくるのである。

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