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創考喜楽

#06 質問には答えるだけがすべてではない・・・質問の隠れた効果を学ぼう!

COLUMN

先日、とある電子機器を販売しているX社より、こんな相談をされた。今まで10年以上の付き合いのある会社A社の電子機器の価格は1万円。そこから毎月、合計1000個仕入れて販売している。仕入れ値は1万円。それが1000個で月1000万円かかる。今年もA社の営業担当には、「契約を継続する」という意向を伝えている。
ところが、業績にかげりがみえはじめたX社は、新たにB社を探しあてた。B社の電子機器は9000円の単価だという。1つにつき、1000円も安い。毎月1000個の仕入れも、問題がない。ひと月に100万円の差額がでるのだから、どう考えてもB社のほうがいい。だが、10年以上もつきあいのあるA社に、断りを入れるのは道義的に難しい。どうしたらよいか、という相談だった。

 

この例を見て、「この場合だと、まずA社に9000円という値段での取引が可能かどうかを質問することからはじめたほうがいいのではないか?」と思う人がいるかもしれない。もちろん状況を説明してA社に納得してもらうというのも悪くはない。しかし、それはまだ早急すぎる。なぜなら、A社が「9500円の単価までならなんとか妥協できます。こちらも努力をしたので、そちらでも努力してほしい」という譲歩を見せた時に、こちらとしてはそのレベルで譲歩しないと、まずい雰囲気になりかねない。長いつきあいであればあるほど、感情的には妥協せざるを得なくなる。単価9000円を本当に達成したければ、単価は8000円でといえる気概が必要なのだ。単価8000円を切り出すことができてはじめて、9000円が可能になるのが競争社会のビジネスである。
だからこのような場合、状況を説明してA社に納得してもらうというのも悪くはないのだが、それでは結果が予測しにくい。戦略をもった交渉でなければ、逆にマイナスになってしまいかねないことを肝に銘じておきたい。ビジネスに同情などはありえないのである。

 

私の提案したアドヴァイスは面白いものとなった。それは、提案型の質問をしてみてはどうか、というものだ。A社がどう考えても受け入れそうにない無理な提案をすることによって、こちらの罪悪感を少なくし、断りやすくさせる効果を見込んだものである。
そこで、X社がA社に実際におこなった提案型の質問は、次のようなものだった。
「本社の経営悪化から、御社の商品仕入れ値を1つ8000円にしなければならなくなりました。しかも、数は800個に抑えたいのです。ついては、御社ではこの条件が実行可能かどうか、お聞かせ願えますか?」

 

1週間ばかり経った後、返事がやってきた。その答えは「ノー」。A社ではどうしてもその値段で商品を出荷することはできないという。そこでX社は、「残念ですが、仕方がないです」ということで、A社との契約解除に成功した。その後、以前と同じような勢いで、X社はB社の安価な製品を仕入れ、販売し始めたという。
これが、質問をして相手に断らせるテクニックである。質問力の原則の1つに、「答える側が決定しているイメージ」というのがある。この状況では、X社の出した質問の条件が呑めるかどうかを答えたのは、仕入れ会社のA社側である。それによって、何やらA社側のほうが「決定」しているかのように見えるが、それはX社が、この「答える側が決定しているイメージ」を利用しているからなのだ。

 

身近な具体例を思い起こしてみよう。たとえば、お見合い。相手のことがどうもピンとこないので断りたい。でも、断るとカドが立つ。そんな時は、無理な提案型の質問をして、相手に断らせるのが常套手段だ。「実は来年から、私はイラクに転勤する予定になっているんです。ほんの3年ほどなので、大丈夫だと思います。一緒に来てくれますか?」これで、「そんな状況ではしょうがない」といい、99%の人があきらめるはずだ。これも、質問をして相手に断らせる例である。
ビジネスで考えてみよう。あなたはビルの所有者。そのビルを販売したい。すると、何とあなたの幼なじみが社長であるA社と、新鋭企業のB社が買いたいと名乗りを上げたのだ。A社の提示した額は10億円。B社の提示した額は12億円。あなたは、もちろんB社に売りたい。だが、なかなかビジネスライクには幼なじみの社長にいいづらい。そういう場合は、提案型質問で乗り切るのも1つの手である。「社長、私たちは幼なじみということもあり、ぜひお互いにプラスの関係を築きたいと思っています。私たちは、最低12億の額がもらえれば、それでいいのです。御社がその額を出せるかどうか、検討してくれますか? その額さえ超えられれば、御社との友好関係をさらに続けていくことができるのです」

 

提案型の質問は、「相手側に決定を委ねる」という点で、一見相手にやさしそうに見える。だが、答えるハードルを高く上げることによって、自分ではなく、相手側に「ノー」と決断させてしまうことも可能なのだ。どうしても断りたいが、それをいいにくい時、そんな時は無理な提案型の質問をして、相手のほうに断わってもらうのも悪くはないだろう。

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