先日、製造業の発表を行なうための元となるレポートの修正を依頼された。内容は非常に興味深いものだったが、それを見て私が気になってしかたがなかった部分がある。それは、主張だらけのレポートであったという点だ。
中身は以下のようになっていた。
「過去のマーケットは比較的安定しており、今後3ヶ月は停滞し、さらにその後はゆっくりと下降する。その下降は今年の10月頃までとなるだろう」
こういった文章がならんでいるだけだった。私の頭に浮かんできた疑問は、「どうしてそういえますか?」という質問だった。なぜなら、「過去のマーケットは比較的安定している」という理由が提示されていない。「今後3ヶ月停滞する」という根拠がないのだ。その原因も分からない。「その後はゆっくりと下降する」という意味は分かるが、理由を説明していないので説得されない。これでは、「明日は晴れるでしょう」といって、外れても何の責任をとらなくてもよい天気予報のレベルと同じである。
プロフェッショナル(専門で仕事をしている)というからには、相手が説得されるような根拠を提示しなければならない。予測をするのは結構であるが、なぜそのような予測をすることができるのか、理解させてほしいのだ。予測だけがつらなっているものには、あまり意味がないのである。
相手を説得するには、主張とその理由が必要である。しかも、大勢の人間を相手に説得するには、客観的な統計などをもってくる。そうすれば、多くの人が納得するはずである。
ためしに、議論を特に学んだことのないビジネスマンにそのレポートを見せたところ、「この人は、下降するっていっていますけど、どのぐらい下降するかはいってませんね。これでは、人に見せられるレポートとはいえないですね」という評価だった。確かに、ビジネスマンの視点も当たっていて、このレポートは詳細を欠いている。私が「どうしてそういえますか?」と感じたのは、まったく妥当な感覚だったのだ。私が目にしたレポートは、業界のプロが見てもおかしなものであったし、私からみても根拠のない主張を並べただけの文章であったのだ。
人に何かを主張するとき、「どうしてそういえますか?」ということを、常に自問し考えて主張しなければならない。それに自ら答えることができないならば、他人が本当の意味で説得されことはないのだ。たとえ、話しの勢いで目の前の人を説得できたとしても、多くの人にあなたの発表を説得することは至難の業になるのである。
私たちが気をつけるべきこと。それは、「理由」がもっとも大切だということ。結論は理由から生まれてくるからだ。理由がなければ結論は生まれないのだ。ここをしっかりと認識しておきたい。「どうしてそういえますか?」この質問を常に頭に意識し、スピーチをしたり、レポートをしたりしたいものである。