前回はWhy型思考の「なぜなぜくん」が思考の対象とする”Why”とWhat型思考の「そのままくん」が対象とする”What”の相違について明確にしました。今回は、WhyとWhatを切り分けて考えることによってものの見方が180度変わることの例を解説したいと思います。
「朝令暮改」という言葉があります。この言葉がビジネスで用いられるときには、いい意味で用いられるときと悪い意味で用いられるときがあります。恐らく読者の皆さんも上司や社長に「朝礼暮改」された、あるいは自分自身が「朝令暮改」した経験が一度や二度はあるのではないかと思います。この言葉から連想されるのは「いうことがコロコロ変わる」「一貫性がない」といった否定的な意味かも知れませんが、反面で「柔軟性がある」「環境に俊敏に適応する」という肯定的な意味かも知れません。
こうした相矛盾する「朝令暮改」の二面性を一体どう説明すればよいのか、考えてみましょう。実は「朝令暮改」にもWhy/Whatという2つの側面があり、先ほどの相反する意味合いもこれら2つの説明に他ならないのです。すなわち「Whyレベルの朝令暮改」と「Whatレベルの朝令暮改」の違いです。ここでのWhyとは基本的な考え方やポリシーのことで、Whatというのは、それにしたがった具体的な施策や一つ一つの行動のことを指します。
そう考えると、まずWhyレベルの朝令暮改とはものごとを考える根拠や理由がふらふらして定まらない、いわゆる「軸がぶれている」という状態です。この部分が定まらないようでは、まわりの人間は振り回されるだけで一向にいいことはないでしょう。これに対してWhatレベルの朝令暮改というものは、「よって立つ哲学」(Why)の部分は不動の状態で、実現手段(What)をその場の状況に合わせて変更させていくということです。いわゆる「軸がぶれていない」状態です。軸がぶれなければ、その場その場で最適の手段に柔軟に対応していくというのは、どんな状況であってもむしろ好ましいことではないでしょうか。むしろここで妙に「あのときこう言ったんだから守ろう」といって頑固に一つのやり方に固執するのは百害あって一利なしと言えるでしょう。
例えば教育担当の皆さんのお仕事で言えば、一度決めた教育計画やカリキュラムも環境変化によって変更が必要になったのであればどんどんそれに併せて柔軟に変えていくというのが本来のあるべき姿ではないでしょうか。ただし、それは「他社がやっているから」とか、「いま新聞や雑誌で話題になっているから」という理由だけではなくて、教育の基本方針として定められている人材の理想像や企業カルチャーというWhyには的確に適合している必要があるでしょう。
ここまで述べてきたことは「Whyの一貫性」と「Whatの一貫性」の違いといってもよいでしょう。「Whyの一貫性」は「軸がぶれない人」として歓迎されるが、「Whatの一貫性」は「単なる頑固者」として煙たがられることになります。
この例に限らず、私たちの身の回りの事象にはWhyとWhatが混在しています。それらをうまく見極めて本質を見極めていくことが重要になるでしょう。