最終回の今回は、うまく感情をコントロールするための、朝と夜の使い方について学びます。すぐに実行できることですから、悪い感情を予防するために、ぜひ実践してみてください。
会社勤めをしていると、目が覚めて家を出るまでの時間というのは、追い立てられるように過ぎていきます。とても慌しいものです。しかし、まだ仕事モードには入っていません。混雑した電車にも乗っていません。顔を合わせるのは家族だけ、一人暮らしなら誰とも会わずに済む時間帯です。こういう時間は、感情コントロールがしやすい時間帯です。まだ嫌なことには出会っていないし、他人にかき回されることもないのですから、熱いお茶やコーヒーを飲みながら、ほんの数分でも気持ちを平静に保って「さあ、今日も頑張ろう」と自分を励ますことができます。
「そうは言っても、やはり朝は慌しい」と思う人は、いまより30分、それが辛いようでしたら15分だけ早起きしてみてください。流れるように過ぎていく時間帯にぽっかり15分の空白が生まれると、不思議なくらい静かな時間になります。会社に出てしまうと、たった15分の空白すら作ることが困難です。いくら自分の仕事に空き時間ができても、周囲は騒がしかったり、電話が鳴ったり、誰かが話しかけてきたりするからです。仮に静かな職場だとしても、勤務中に瞑想にふけることはできません。5分の空き時間でも、何かできることはないかと仕事を探してしまうのが私たちです。
その点で、朝の15分や30分というのは、邪魔の入らない静かな時間です。いつもの時刻になったら家を出るだけのこと。そこから先は、なかなか自分の思い通りにならない時間が退社するまで続きます。自分の感情をコントロールして静かな気持ちを作るには、朝がもっとも向いています。しかも朝の感情が安定していると、一日のスタートを気持ちよく切ることができます。午前中の仕事がはかどるのです。朝から感情が乱れているとそうはいきません。気持ちばかり焦って空回りしたり、集中力が衰えて仕事の遅れが出てきます。朝の気分が充実しているときは一日も充実してくるのです。
夜は、逆に感情のコントロールが難しい時間帯です。疲れやストレスが蓄積したり、アルコールが入ったりして気持ちが昂ぶっていることもあるからです。嫌なことがあったり思い通りにいかなかったりした一日ほど、夜の時間は感情も不安定になりやすいですし、テレビやインターネットといった誘惑も多い時間です。
けれども、1つだけメリットがあります。一日の中で、夜の時間だけは自分の思い通りになるということです。極端なことを言えば、仕事が終わって帰宅したら、翌朝の出勤時間までは好きなことをしていいのです。誰も文句を言う人はいません。とくに一人暮らしの人はそうでしょう。ただ、ここに落とし穴があります。自由な時間だからこそ、油断するとコントロールに失敗します。それが翌朝に響けば、朝の感情コントロールはできなくなります。
そこで、気がついてほしいことがあります。夜の自由な時間は、自分の意思で締めくくることができます。夜更かしも自由ですが、早めに眠りに就くことも自由です。たとえばふだん12時に就寝している人が、「ちょっと早いけど眠ろうか」と思って11時に就寝しても何ひとつ不都合はないということです。この「自分の意思で締めくくることができる」というのは、とても貴重な時間帯なのです。朝は否応なしに家を出なければいけないし、仕事は区切りがつくまで終わりにはできません。でも、夜はスイッチを切るようにパチンと締めくくっていいのです。
ここに、実は一日の感情コントロールの秘訣があります。その日の締めくくりを惰性や誘惑に流されず、自分の意思で穏やかな時間に変え、自分の意思で早めに就寝することができる人は、感情コントロールに成功したことになるからです。あなたにもそれができた日があるはずです。気持ちのいい朝の目覚めを迎えたときに、「昨夜は静かに過ごして早めに寝たのがよかったんだな」と気付くでしょう。ほんの少しの心がけで感情のコントロールができるという実感は、夜の過ごし方から生まれてくるのです。
全12回の連載で、感情について学び、感情のコントロールについて学んできました。皆さんはもう、感情コントロールのできる人間になっているはずです。最初はうまくいかないこともあると思いますが、気にしないでください。どんなに冷静な人間でも、感情に振り回されることはあるのです。
それよりも、仕事や暮らしの中で基本的に朗らかな人間であること。それをまずは目指しましょう。これが、皆さんの感情を明るくするための近道です。これからもぜひ、ここまでに学習したたくさんの知識や理論をベースに、どんどん実践をしていきましょう。