前回まで、WhyとWhatの違いについて具体例を述べてきましたが、今回はWhy型思考を営業の商談に適用して、What型思考とどういう差が出るのかについて見ていきたいと思います。Why型思考とWhat型思考で大きな差が出る場面の一つがこの商談という場面です。
営業の商談で失敗したときの言い訳として恐らく一番に上がるのが「自社の価格が他社より高かったから」というものです。これを疑ってみることによってWhy型思考が適用できないかと考えてみるのが今回のテーマです。
「今回は価格の差で他社さんに決めさせていただきました。」「もう少しA社さんより安くしてくれればそちらにしたんだけどねえ・・」・・・よく聞くお客様からのお断りの言葉です。
営業マンはこの台詞を自社に持ち帰って上司に報告することになります。「値段の差で他社に取られました。どうしてうちの商品は高いんですかねえ。もう少し安くなれば売れるんですけどね。A社の営業マンがうらやましいですよ。」
でもこれ、本当にそうなのでしょうか。「高いから他社にした」というお客様の言葉は本当に”Why”なのでしょうか。ここで皆さんが何かを買う場合の顧客側の立場になったと想定してみましょう。もしも「営業マンが気に入らない」という理由で断りたいという場合、それをストレートに本人に言うでしょうか?あるいは、自分としては商品が気に入ってある程度決めていた判断を突然会社としての社内事情の「政治的な理由で」ひっくり返されてしまった場合にそれをそのまま社外の人に話すでしょうか?
あるいは、お金を時間と置き換えてみてください。休みの日にかかってきたマンション勧誘の電話に「いま時間がないから」と答えたあなたの言い訳は本当に”Why”でしょうか?
そう考えてくると、お客様からの「値段のせいで」という理由は真の理由ではなく(つまりWhatで)その真因は別にあった可能性があったのではないかと疑う余地は十分にあると考えたほうが自然でしょう。
「自分が気に入ってもらえなかった」という理由ならば、どこがまずかったのか、何が改善できたのかと考えれば次の商談に向けての向上が見込めますが、「値段のせい」にすれば思考停止していつまでたっても進歩がありません。あるいは、「政治的な理由」だったとすれば、次回はお客様の社内事情や意思決定のメカニズムを事前に調べたり聞き出す等の工夫もできたでしょう。
あるいは、絶対値としてはA社の提案の方が高かったにも関わらず、内容的にそれを上回るほど魅力的で、提案内容に「お買い得感」があった場合もあるでしょう。その場合には商品以外の提案力という付加価値で勝負するというのはまさに「営業マン」として一番やるべきことではないでしょうか。
本当にそのお客様自身は心の底から「値段のみの理由」と考えていたのかも知れません。ただその場合でも、他の理由で自社商品を購入してくれるお客様がいるのであれば、「なぜ」そのお客様は敢えて買ってくれたのだろう?と逆に考えることもできないでしょうか。
そもそも本当にどのお客様でも100%「値段だけ」で商品の選択ができる商品であれば人間が介在する必要はなく、インターネット販売にすれば営業コストを下げられますから商品価格も下げられます。商品力は価格競争力がある商品であれば、これも営業マンは誰でも売れるということになります。営業マンが存在する価値というのは商品や値段で必ずしも競争力がない場合にこそあるといえるでしょう。そのために必要なのが”Why”を常に考えることなのです。
もちろん、本当に価格だけで決まる入札商談のようなものもあるかも知れません。それでも必ず人間が介在して改善できることが1%でも2%でもあるはずです。「値段」を言い訳にした途端に思考停止し、進歩も止まってしまいます。
まずは「自分に何ができることが少しでもないか?」を考えようとする姿勢がWhy型思考を起動するトリガーといえるでしょう。