地頭力をテーマに続けてきた本連載も今回が最終回となります。最終回は、これまで解説してきた地頭力の「取り扱い説明書」を皆さんにお送りして終わりたいと思います。
地頭力を鍛えて思考力をつけることのメリットについてはこれまでの11回の連載で十分すぎるほどご理解いただけたかと思いますが、地頭力を鍛えることのデメリットもあります。これは思考力にすぐれた人、いわゆる理に勝った人の欠点といってもいいでしょう。
ビジネスを円滑に進めていく上では大きく3つの知的能力が必要になるのではないかと思います。①地頭力に加えて、②専門分野等の知識力、そして人を動かす力としての③対人感性力です。しかしながら現実的にはこれらを3つとも持っているスーパーマンのような人は非常に少ないと思います。その中でも特に地頭力と共存するのが難しいのが対人感性力なのです。
なぜかと言えば、地頭力に優れた人の行動パターンと対人感性力に優れた人の行動パターンはほぼ「真逆」といってもいいからです。例を挙げましょう。地頭力というのは、「まず疑ってかかり」、「まず結論から考え」、「高所から(全体から)考え」、そして「枝葉を切り捨てて単純に考える」ことでした。
この考え方を、例えば皆さんが部下の悩みを聞く場面に適用してみましょう(逆の立場で考えてみていただいても構いません)。「(サプライヤの)○○社さんの品質が悪くて困っているんです。」という部下に対して、「本当? 悪いのは管理している君の方じゃないの?」(疑う)と反応し、「結局何が言いたいの? 私にどうして欲しいの?」と結論を急ぎ、上から目線で(高所から)「要するに何なの?」(単純化)といった反応をすれば、部下の悩みは全く解決しないばかりか、二度とあなたに悩みを相談してくることはないでしょう。つまりなまじ地頭力を普段の仕事で発揮すると、周りから人がいなくなっていくということです。これはプライベートの人間関係においては特に気をつける必要があります。
では地頭力を鍛えることには意味がないのでしょうか? それも違います。対人感性力だけでも仕事はできません。地頭力というのは「理屈」の部分です。人を動かすのが得意な対人感性力の「情の人」というのはとかくこういった「考える力」を軽視しがちです。「理屈なんか何の役にも立たない」とか、「実践が全てだ」というのがその理由ですが、本当にそうでしょうか。確かに一人ひとりの人間をミクロで見た場合には対人感性力が重要ですが、もっとマクロに人の集団の動きを長期的に見たり、あるいはものづくりをしたり、お金の運用をしたりする場合に重要となるのは「理屈」であることは自明でしょう。あるいは商品や事業の企画を考えるとか、先ほどの部下の話を聞いた後に解決策を考える場面で威力を発揮するのは間違いありません。
では対人感性力と地頭力はどういう風に使い分ければよいのか。一言でいえば、まず地頭力を使って徹底的に全体の作戦を考えた後に、具体的な実施段階では個々の人を相手に対人感性力という感情の部分を重視する、いわば”Think rationally, act emotionally”というのが重要になるでしょう。地頭力は「心の中で」使うというところがポイントです。
地頭力も使いようです。これまで解説してきた場面や使い方で皆さんが地頭力を発揮していただいて社内でよりよい教育プログラムの企画や運用をして、世界に通用する競争力のある人材を育成していただくことを期待しています。
これまでお読みいただき、ありがとうございました。