今回は前回に引き続き、考える力としての地頭力を鍛えるためにはどうすればよいかについて解説したいと思います。テーマは読者の皆さんに直接的に関係する、企業内の教育環境をどうすべきかについてです。
前回の「時間に対する感度を上げる」に続いて今回は地頭力を鍛えるための条件を挙げてみたいと思います。地頭力とは言い換えれば、「自分の力で考える『自頭力』」といいかえることもできるでしょう。そのためには「知的依存心を捨てる」ことが重要です。具体的に知的依存心を捨てるとは、何らかの答えを出す場合に一切他のものに頼らずに自力で答えを出してみるということです。
では私達の思考を妨げる「頼ってしまう(依存する)対象」とは何でしょうか?
それは、上司であり、周りの同僚です。あるいは「前例や慣習」というのも該当するでしょう。そして最近では最も「頼りがいがある」のがインターネットです。ここではたいていの問いに対する「答え」が用意されてしまっていますが、極力これを安直に頼ることはやめることです。自分自身を後ろから羽交い絞めにしてでもこうしたものを頼らずに自分で考える癖をつけることが重要です。要は「○○さんがそう言ったから」とか「××に書いてあったから」とか「去年もそうだったから」というのはそれだけでは何の理由にもならないということです。
ここで勘違いしないでいただきたいのは、頼っていけないのは最終的に結論を出す段階です。「情報の入手先」としてはどんどん頼るべきで、ただそれをそのまま鵜呑みにせずに最終結論だけはそれらを参考にして自ら考えて出すということを徹底するということです。
こうやって徐々にでも「知的依存心をなくす」ことによって自分の頭で考えるということが習慣化されてきます。
では「知的依存心をなくす」ために教育担当者としての皆さんはどうすればよいでしょうか。ここでも基本は「依存するものがあるから依存心がつく」ということです。つまり依存するものが何もないような「ないないづくし」の環境ぐらいの方が地頭力増強の観点からはすぐれているというわけです。
企業内の教育(あらゆるものにあてはまりますが)には大きく2通りあるのではないかと思います。一つは「知識を増やす」ための教育で、もう一つが本連載のテーマである「考える力をつける」ための教育です。知識を増やすための教育では、充実したカリキュラムや懇切丁寧なテキストが用意されているのは有効なことだとは思いますが、「考える力をつける」ためにはあまり恵まれた環境を作るよりはむしろ「恵まれない環境」をつくって自分の力でどうすればよいかを考えさせるのが最良の訓練なのではないかと思います。
「はい、あなたは入社5年目になったので○○と××を習得する必要があって、それをやるには○月○日○時○分にどこどこに来てください」等という「懇切丁寧な」指示ばかりあったら受講者の思考が完全に停止してしまうことは間違いないでしょう。そういう意味で教育環境として「過保護」といえるようなものを与えるのは自頭力をつけさせるという観点では最悪の環境といえるでしょう。
リーマンショック以降の経済停滞期においては、教育費というのは広告費、交際費と並ぶいわゆる「3K」の一つとして真っ先に経費削減のあおりを受けるという点で、教育担当としての皆さんは苦労の多い毎日ではないでしょうか。でもこれをある意味で大チャンスととらえていただきたいと思います。それはここまで述べてきたように「恵まれない環境」を敢えて作り出すことの出来る格好の機会だからです。
自分で考えるための環境としては何でも与えられた環境は最悪の環境です。ここは思い切って「過保護」から脱するためのいいタイミングなのではないでしょうか。
次回はいよいよ最終回ということで、「地頭力の取扱説明書」をお送りしたいと思います。