5年ほど前から20代半ば~30代前半の若手社員が1~2年の海外実務研修員、あるいは、駐在員として赴任するケースが増えてきています。若手社員が入社後早い段階で多文化社会を経験し、グローバル人材としての素養を磨き始めることは、今後、日本企業が世界でサバイバルしていくための好条件といえます。
特に英語圏に赴任する場合、このような若手社員は現地採用の外国人の上司やチームリーダーの下で働くことが多くなり、日本で働いているときと比べて、違和感を多く抱くことになります。彼らからよくある相談内容は、外国人リーダーの行動についてです。
「リーダーが突然、私が知らないうちに、すでに決めたことを変更するんです・・・」
「外国人リーダーって独裁的なのでしょうか?トップダウンとはこういうことなのでしょうか?」
組織の中で働いている場合、よほどの独裁者でない限り、一人でものごとを決める人はあまりいません。リーダーでも、何か重要なことを決めるときは一人の人間として不安を抱えるのが自然です。リーダーとして自分の考えや結論をキーメンバーに「声をかけ」、相談、議論した上で最終判断することが普通なのです。
冒頭の相談内容のポイントは、日本人メンバーに声がかからないことがよくあるということです。では、なぜ、日本人メンバーに声がかかりにくいのでしょうか?答えは2つあります。
ひとつは、日本人メンバーが外国人リーダーとの間に報告関係があるにも関わらず、日本本社を向いて仕事をし「スパイ化」してしまうことがよくあるからです。
具体的には、外国人リーダーが日本本社から反対されそうな案について、敢えて日本人メンバーに相談すると、あたかもそれがリーダーの強い考えかのように本社に伝わり、本社から先に牽制を受けてしまうことがよくあります。このようなケースを数回経験すると、当然、リーダーは日本人メンバーへの不信感を強め、声をかけることを控えるようになっていきます。背景には、日本本社側が日本人メンバーにこのような行動を期待している場合もあるのですが、これは若手社員の貴重な時間を無駄にしてしまい、グローバル人材育成の点では明らかに逆効果です。
もうひとつは、日本人メンバーが、外国人リーダーにとって「頼りにしたい存在」でない、つまり、声をかけて相談や議論する価値が低い存在になってしまっていることが多いからです。
このような日本人メンバーは、日常的な議論の場で自分の意見をほとんど明快に表現したり主張していないのです。ニコニコしながら黙っているか、言葉足らずであいまいな表現に終始しているか、あるいは、YESかNOを求められ、とりあえずYESと言ったものの、その後、陰で否定的な行動をとっていることが多いです。その結果、チームへの貢献度が低いとみなされてしまうのです。リーダーは本来、チームへの貢献度が高いメンバーを求めているのです。
実際のところ、外国人リーダーにとって「頼りになる存在」のメンバーというのは、より明快な論理やより強い根拠でリーダーの結論をサポートし賛成してくれそうな人や、説得性の高い論理で敢えて反対、牽制し、異なる視点を与えてくれそうな人なのです。
若くして海外赴任の機会が与えられた日本人は、日本本社で日本人と仕事をしているときと違って、スイッチを切り替え、自分の意見を明確に論理的に表現する習慣を身につけた方が大きく成長できます。そのためには、常日頃、自分の考えや意見を約200字から400字程度でまとめて言い切る練習をすることが大切です。具体的な手段は、ノートやパソコンを使って「書く」、あるいは、ICレコーダーに録音するなどの方法がお勧めで、その内容を都度、英語に翻訳する練習をすると英語の上達にも大変役に立つはずです。
一般的に、日本人リーダーは反対意見を好みません。同調し賛同してくれそうな信頼できるメンバーに「声をかけて」相談し判断を固め、そのあと、全メンバーに声をかけ了解をとっているだけです。つまり、日本人リーダーの下では、メンバーとして黙って状況を静観し、自分から発信し行動しなくても、日本人リーダーが「気を配って」メンバー全員に声がけの行動をとってくれます。しかし、海外では、通常、自分から発信し行動しなければ、リーダーは行動してくれないのです。
日本人の若手社員を優秀な外国人リーダーの下に配置し、早い段階で、日本人と外国人の・行動原則の違いを気づかせることはグローバル人材育成上、大変重要だと思います。