英語講師・通訳案内士

 

馬上(もうえ) 千恵さん

 

インバウンドビジネス従事者にとって、「英語力」が重要な意味を持つことは改めて説明するまでもありません。また、仕事を離れても、英語が話せることで、多くの外国人と触れ合うチャンスが生まれ、一気に世界が広がります。コロナ禍で外国人観光客の姿は消えてしまいましたが、接客業務に追われない今こそ、アフターコロナを見据え、じっくり勉強する絶好の機会ともいえるでしょう。現在は札幌市を拠点に、英語講師・通訳案内士として、ガイド、講演など精力的に活動されている馬上千恵さんに、「インバウンドと英語」をテーマにお話を伺いました。

 

英語は伝えたい気持ちが大切、継続は力なり

 

英語力を身につけるメリットについて、馬上さんは自身の体験も踏まえ、「コミュニケーションを図れることが一番。そして、海外に情報を発信できることも大きいと思います。お客様に来ていただけない今だからこそ、情報発信がより大切になります。(英語での)問い合わせ等に迅速に対応すれば、お客様の獲得にもつながりますからね」と強調します。最近は便利な翻訳アプリがあるため、つい頼りにしてしまいがちですが、「拙い英語をずっとしゃべられるよりマシ」と感じているゲストも少なくないので、「アプリの活用はOK」なのだとか。ただし、簡単な挨拶もなく、いきなりアプリを示すと、不快に思われかねないのでご注意を。

 

日本人の場合、完璧な英語を話そうとするあまり、プレッシャーや気後れで、逆にこちらの言いたいことが伝わらないというケースが目立つ印象があります。そんな人たちに、馬上さんは常々「英語は伝えたい気持ちが大切!」と伝えているそうです。

 

「メニューやマニュアルなんかは事前にしっかり準備しておく必要がありますが、コミュニケーションにおいては、とにかく伝えたいという気持ちが大事なのです。カタコト英語にゼスチャー、アプリも駆使すれば、大抵はどうにかなるはず。中学英語程度のレベルがあれば、そこにお仕事で必要な単語を覚えていくだけで、最低限のコミュニケーションは可能です。その際、言葉の配置(語順など)には注意してください。配置がめちゃくちゃだと、さすがに理解してもらえませんから」

 

英語を学びたいけれど、仕事との両立は大変……と悩んでいる方も多いのでは。そんな社会人のため、おすすめの勉強法をお聞きしました。

 

「重要なのは継続すること。たとえば、休日にまとめて5時間勉強するよりも、30分でも15分でもいいので、毎日続けるほうが間違いなく効果があります。上達が早いのは、コツコツ続けている人。お仕事に関連する内容、あるいは映画など関心のあるテーマなら楽しく勉強を続けられると思います。勉強が続かないという人には特徴があって、3週間くらいは頑張るものの、そこで挫折してしまうのです。ちょうど勉強が習慣になる直前で、実にもったいない」

 

馬上さんは8年ほど公務員を経験し、その間、仕事をしながらコツコツ努力を積み重ねてこられたそうです。まさに「継続は力なり」ですね。

 

これは私自身、日頃実感していることですが、目の前に困っている外国人がいても、英語に自信がなく、なかなか声をかけられないモヤモヤ感。そう、いわゆる「英語コンプレックス」です。多くの人(筆者より明らかに英語レベルが高い人も含め)が抱えている悩みだと思いますが、どうすれば解消できるのでしょうか。

 

「まずは一歩踏み出す勇気です。声をかけるのを尻込みされる方に話を聞くと、外国人の前でオタオタするのも恥ずかしいけれど、それよりも周囲の日本人の目が気になる、と言うのです。日本人はつい完璧を求めてしまうからでしょうね。海外の方は、『日本人は聞けば親切だが、困っているとき声をかけてくれる人は少ない』と感じているようです。日本人の一般人の英語力に対する期待値は低いので、ここでもやはり伝えようという気持ちが大事だと思います」

 

私はアジアへ行く機会が多いのですが、どの国でも下手な英語で(現地語を話せないため)何か質問すると、みなさんとても一生懸命に答えたり、案内してくれたりしました。こうした体験の蓄積が、アジアの良好なイメージを形成しているように思います。みなさんもぜひ、積極的に声をかけ、質問に答えてあげてください。旅の印象はハードよりソフトなのです。

 

英語力はプレゼン力とコミュニケーション力

 

アジアをはじめ、海外で印象深かったのは、ホテル、駅、旅行会社、飲食店、観光案内所など、旅行者が集まる場所では、驚くほど英語が通じた、ということです。むしろ、相手の英語が流暢すぎて、こちらが戸惑う場面も多々ありました。日本ではどうかというと、残念ながら、まだ外国人観光客の期待に十分応えられているとはいえないように感じます。

 

「英語表記に関しては、分かりやすいものが増えてきました。ちゃんとネイティブチェックが入っているのかと。ただ、案内やパンレットなどがどこにあるか分からないという声を耳にします。どの自治体もせっかくたくさん作っているのに、観光客の手に届いていないのは、今後検討すべき課題といえるでしょう。また、交通機関、ホテル、観光案内所など、ここは英語が通じるだろうと思われるところくらいは通じてほしい、との声もあります。現場で働くスタッフは、みなさんとても意欲はあるのですが」

 

馬上さんが資格を有する「通訳案内士」は、英語力に加え、各地の地理、歴史、文化など幅広い知識を習得し、なおかつコミュニケーション能力も備わっていなければならない難しい仕事です。有資格者は都市に集中しており、地方は少ないのが現実ですが、札幌へ来る以前は北海道の地方を回ってきた経験を持つ馬上さんは、「地方にこそ増えてほしい」と訴えます。

 

「ガイドブック以上の深い話ができるのは、その土地の人。そういう話をお客様は望んでいますし、最近は、地元の人と一緒にご飯を作って交流するといった、体験型の観光が人気を集めていますから。ゲストだけでなく地元の人も喜んでくれるので、ガイドとしてやりがいを感じます」

 

人材不足を埋めるには、主婦の活躍に期待したいと馬上さんは話します。

 

「英語力があると感じますし、コミュニケーション能力も高いと思うので。合格のコツは、英語学習同様、コツコツ頑張るしかありません。私は地理が苦手で、白地図に県名を書き込むところから始めました」

 

ちなみに、英語科目の免除は、英検1級、TOEIC900点以上。それくらいハードルが高いのですが、アフターコロナに必ずや財産となる資格なので、興味のある方はチャレンジしてみては。

 

最後に馬上さんは、次代を担う若い世代に向け、「プレゼン能力を磨いて」とのメッセージを寄せてくれました。英検の「なぜそう思うか」といった問いかけ形式の問題になると、答えに窮する受験生が多いとのこと。

 

「英語で表現できないことは、日本語でも表現できないのです。自分の意見がない人は英語力が伸びません。そして、『海外の方とのコミュニケーション方法』の違いも意識することが大切。日本人同士なら何となく伝わることも、育ってきた環境や文化が異なる海外の方には伝わらないこともありますからね。英語はあくまでコミュニケーションツールのひとつ。なぜと思える力、自分の考えを伝える力、文化を知る力を持って、世界で通用する人材になってほしいと思います」

 

みなさん、馬上さんのお話を聞き、学習意欲を刺激されましたか?

 

 

 

取材協力

馬上千恵さん

伝わる英語を使う・学ぶ M’s English

https://msenglish-network.com/

(講演・レクチャー等の問い合わせはこちらから)

 
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