コロナ禍は終息の兆しすらみえず、筆者が住む北海道では、4月から9月にかけ6ヶ月連続で新千歳空港国際線の入国者がゼロ(出入国者ゼロは3ヶ月連続)という惨憺たる状況が続いています。国内旅行に関しては「GoToキャンペーン」が一定の経済効果をもたらしているものの、外国人観光客の姿が戻るのはいつになるのでしょうか——。

 

例年は大勢のスキー客で賑わうニセコ地区も、この冬は静かで寂しい雪景色になりそうです。

 

そのニセコ町を訪れ、複数の関係者にお話を伺いました。今回は総合的な見地から町の現状や課題を探ったため、特定の「キーマン」ではなく、「ニセコ町編」としてお届けします。

 

 

ニセコ町 リゾートホテル勤務 匿名

ニセコ町教育委員会 学校教育課 前原功治課長

 

外国人労働者の間では「共助」の動きも

 

まずは某リゾートホテルに勤務する男性スタッフに厳しい現状を語ってもらいました。

 

「コロナ禍の影響は言うまでもありません。夏場は国内のお客様がいらっしゃるのでまだマシなのですが、インバウンドの比率が高くなる冬場は大変です。予約がまったく入っていませんからね。私たちはなんとか踏ん張っていますが、かわいそうなのは、観光業に従事する外国人スタッフ。職を失ったうえ、国に帰ることもできず、途方に暮れていますよ」

 

総務省が発表した住民基本台帳に基づく総人口をみると、北海道内179市町村のうち、札幌圏の4市を除くすべての自治体で前年比人口減となっていますが、住民登録している外国人も含めた総人口では7町村が人口増に。これらはいずれも外国人観光客に人気のリゾート地という共通点があります。このうち、ニセコ町は105人増、隣接する倶知安町が250人増と、両町をあわせた「ニセコエリア」の数字が突出しています。

 

こうした外国人労働者に対する給付金などの支援は、日本人と比べると十分とはいえません。そこで、日本語を話せるベテラン外国人が、言葉の壁に苦しむ外国人をサポートするなど、「共助」の動きが広がっています。

 

ニセコ町は、昭和30~40年代のリゾート開発ブームの中で、町外業者によって観光基盤が整備されてきた経緯があり、当初は文化の違いから地元住民との間で軋轢もあったとのこと。しかし、外部の人間との長い共存の歴史が寛容な土地柄を生み、いまでは外国人だからといった排他的な雰囲気はまったく感じられません。外国人労働者にとっては、最も働きやすい環境といえるでしょう。

 

前出のスタッフはこう続けます。

 

「彼らは日本人スタッフの不足を埋めてくれるだけの存在ではありません。人口が増えたことで店なども増え、結果、地元住民の利便性も向上しているのです。一日も早くコロナ前の状況に戻り、また彼らが活躍できるといいのですが」

 

 

 

ニセコ高校の取り組みと今後の課題

 

人手不足の問題を解決するには、即戦力となる外国人スタッフの採用と同時に、将来の観光業の担い手となる若い世代の育成にも力を入れていかなければなりません。そうしたなか、「グローバル観光コース」を設けているニセコ高校(昼間定時制)では、全国から広く生徒を募集し、文字通りグローバルな視点を持った人材を送り出しています。ニセコ町教育委員会学校教育課の前原功治課長に、同校の取り組みについて説明していただきました。

 

「これまでは親御さんも移住することが入学の条件だったのですが、来年度からは身元引受人というか、生徒さんを預かってくれる人がいればOKと規則を変更しました。条件を設けていたのは、今回のコロナ禍や震災のように、何かあって学校が閉鎖になった場合など、子どもはどこへ行けばいいのかといった問題が生じかねないからです。かといって、親子一緒となると、生活基盤がまったく変わってしまい負担が大きいですからね」

 

ニセコ高校のプログラムには、「観光に関する基礎的な知識の習得」「サービスマインド、ホスピタリティーの知識・技能の習得」「地域インバウンド観光に対応できる知識・技能の習得」といった内容のほか、ホテル研修やマレーシア見学旅行も。生徒たちは自分なりの明確な目標を持って参加しており、大きな財産となっているようです。とはいえ、高校だけで高いスキルを持った人材を育成するのは限界があるため、大学などで学び直す子がほとんどとのこと。こうした生徒たちは将来、高い確率でインバウンド業界に従事するはずで、前原さんも「いつかどこかで立派になった姿を目にする気がします」と期待を寄せています。

 

ただ、残念ながら、インバウンド業界への就職希望者は決して多くはありません。それは「給料が安い」「休みが少ない」「仕事がきつい」といったネガティブイメージが根強いことも事実だからです。

 

「インバウンドというと華やかなイメージがあるかもしれませんが、働いている人は大変なのです。待遇面などは求人票を見れば分かります。好きなだけでは選べませんし、その点、今の子はシビアですよ。もちろん、地元を離れたくない、地元を離れられない、といった子もいるわけで、ニセコの場合は地元に働く環境が揃っている贅沢なエリアといえます。北海道の農業地帯では、冬に仕事がなくなるのが一般的ですが、ここは逆に出稼ぎが来るのですから。インバウンド事業者には労働環境を改善していただき、多くの子が地元でチャンスをつかめるようになれば、町としても嬉しいですね」

 

ニセコ高校は基本、農業校であり、観光ばかりにシフトしているわけではありません。たまたま地元に観光というニーズもあり、定員割れの状況が続いていたことから、全国規模で生徒を募集し、インバウンド人材の育成に力を入れているのです。ニセコを愛する若いインバウンド従事者と農業者、そして外国人スタッフがタッグを組めば、新しい観光のかたちを提供できるのではないでしょうか。

 

 

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