遺愛女子中学

高等学校英語科教諭 相川 宏泰さん

 

大型クルーズ船の寄港地として人気を集めている函館市。異国情緒あふれるこの街を訪れた外国人乗船客を、ユニークな「いか踊り」などで歓迎する微笑ましい光景がいまや風物詩となっていますが、その「おもてなし」の主役を務めるのは、かわいらしい女子高生たちなのです。2007年からスタートしたこの「客船ボランティア」(通称「客ボラ」)を指導する相川教諭は、「最初は活動の内容も何をすればいいか分からないし、お客さんもなんで高校生たちがいるの?というような状況でした。試行錯誤のすえ、軌道に乗り始めたのが5年目ぐらいから。ちょうど私はその時に2年生の英語科の担任をしていたのですが、とても英語に対するモチベーションが高く、ボランティア活動をやるのが好きな子たちが集まったクラスだったんですね。そこで、どんどん好きなことをしていいよと。そうしたら、『先生、バス待っている間って凄い外国人の行列が出来るから、その間に楽器を弾いたり、お菓子を配ったりしていいですか?』などと、どんどんアイデアが出てきまして。それ以降、活動の幅は一気に広がっていきました」と12年間の「成長」を振り返ります。

 

手作りの「おもてなし」に国からも高い評価

「客ボラ」が始まったのは、プロの通訳の不足に悩んでいた函館市から「完璧じゃなくていいので、生徒さんの英語練習の場面に活用されてはどうですか」と打診があったのがきっかけ。もちろん、長い伝統と確かな実績を誇る同校への信頼があったことは言うまでもありません。生徒の練習のつもりが、回数を重ねるたびに反響が大きくなり、2015年には観光庁の長官表彰を受け、さらに函館港が「プリンセス・アワード2018」の「ポート賞」を受賞する大きな原動力にもなりました。年2回でスタートした「客ボラ」は、いまや年10回ぐらい行うようになり、トータルでは約80回を数える一大イベントになっています。

 

そして、日頃の努力に対し、思いがけないプレゼントも。2018年12月、プリンセスクルーズ社からの誘いがあり、なんと実際に乗船しての語学研修が実現したのです。8日間のクルーズとシドニーでの滞在。参加した31人の生徒は約2500人の外国人と交流する機会を得て、夢のような豪華な空間で夢のような時間を過ごしました。

 

このように話題になれば各種メディアで紹介される機会が増え、それがまた生徒たちのモチベーションを高めるという好循環を生むことに。

 

「『客ボラ』のスタート時、英語科は各学年に1クラスしかなかったんです。ところが、いろいろと脚光を浴びたことで、英語科に入ってボランティアをやりたいという子が増えてきて、2クラスになりました。最近では、多い時は80人ぐらい連れていくので、ひとりの外国人を5人ぐらいで囲うなんて場面も(笑)。クルーズ船のお客さんは旅慣れている方がほとんどで、朝市でお寿司を食べるといった定番の観光コースに飽きている方が多いのですね。夏服と冬服の移行期には2種類の制服で行ったりするのですが、そういうことが楽しいようで、どこの港でも経験できない貴重な交流ができたと大変に喜ばれています」

 

旅先の印象は「人」に左右されるもの。その点、ふつうの旅行ではありえない女子高生と触れ合える「客ボラ」は、観光客にとってプライスレスの価値があると言えるでしょう。乗船客と生徒の交流はその後も続いているそうです。

 

「その場でメールを交換してお礼のメールが送られてきたり、生徒さんたちにお土産を渡したいから学校の住所を教えてくださいだとか、アメリカに帰ってからボールペンとかお菓子とかが送られてきたり、ちょうど孫ぐらいの年齢にあたるので、ジェネレーションを超えた交流にもなっています」

 

 

「客ボラ」は自分たちがパイオニアというプライド

一方、生徒たちにとっても「客ボラ」体験のメリットは計り知れません。相川教諭は「英語学習のモチベーションはぐっと上がりましたね。英検の合格率も格段に上がっています。このような目に見える成果以外にも、人の気持ちになってものを考えたり、すべての面においてプラスに働いているなと感じます」

 

また、「おもてなし」の楽しさを知り、得意の語学を生かしてインバウンド業界への就職を希望する生徒が増えているとのこと。第一線で活躍している卒業生は現役生の目標になっています。

 

「この前、沖縄への修学旅行があり、あの大変なことになった首里城も見てきたんですけど、帰りの飛行機は2班に分かれ、1チームはJAL、1チームはANAだったのですが、両方の窓口に卒業生がいて、一生懸命に働いているんですよ。『客ボラ』をやっている最中はこの子らがどういう風に就職して、どういう現場で、どういう立ち居振る舞いで仕事をしているのか想像がつかなかったけれど、やっぱり人を喜ばせたいとか、旅をしている人のサポートをしたい、っていうモチベーションが少なからずあったんじゃないかと思いますね。これも私の卒業生で『ダイアモンドプリンセス』に乗って働いている子がいるんですけど、高校時代にやってきた『客ボラ』のインパクトがあまりに強くて、どうしても船内で働いてみたいと。後輩からしたら先輩が乗っているんだ、私たちもいつかこうなれるかもしれない、という気持ちになるでしょうし。こうした卒業生をみていると、長いことやってきたんだなあという実感がありますね」

 

最近は同校と同じような活動を展開する学校が増えており、刺激を受けることもあるよう。

 

「着付けとか、和太鼓とか、それを見た生徒は、うちら負けてるよと(笑)。生徒たちは凄いと思いますよ。あの奇妙な『いか踊り』を嫌がらずにやるのですから。ふつう女子高生って嫌がりそうですけどね。率先してやって法被が足りなかったら怒り始めます(笑)。彼女たちのプライドになっていますからね、『客ボラ』は私たちがパイオニアなんだ、というような」

 

最後に英語で受け答えするのは苦手という人へのアドバイスを伺いました。

 

「これは本当に生徒たちに聞いた方が良いと思いますが、うちの生徒たちは間違いを恐れず、ハローしか言えなくても全然尻込みしないんですよ。笑顔で行けば高校生たちがわっと寄ってくること自体凄く嬉しいみたいなので、なんとかなるものです。パーフェクトじゃなくてもいいのかなとは思います」

 

みなさんも街で困っている外国人を見かけたら、きれいな英語を話せるかどうかは関係ないので、ぜひ笑顔で声をかけてあげましょう!

 

「客ボラ」の様子

 

 

取材協力

遺愛女子中学・高等学校

北海道函館市杉並町23-11

0138-51-0418

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