終息がみえないコロナ禍に、全国の宿泊業者が悲鳴を上げています。そのなかでも外国人観光客に人気のゲストハウスは、多人数が1部屋をシェアする業態のため、最も深刻な影響を受けているといえるでしょう。取材時(2020年7月下旬)にまだ休業を余儀なくされていた「Train Hostel北斗星」のマネージャー岡崎明子さんに、現在の心境やウイズ・コロナ時代を見据えた今後の方針を伺いました。

 

 

株式会社R.project Train Hostel北斗星 マネージャー
岡崎 明子さん

 

コロナ禍の影響を最も受けたドミトリー

 

「Train Hostel北斗星」は、同社が複数展開するゲストハウスのひとつ。2015年夏に惜しまれつつ廃止となったブルートレイン「北斗星」をコンセプトにした特色ある施設で、外国人観光客のみならず多くの鉄道ファンから絶大な支持を得ています。個人的な話になりますが、2016年のオープン以来、懐かしい寝台車の雰囲気を味わいたく、大の鉄道ファンである筆者もたびたび“乗車”してきました。

 

「国際交流や人と人との出会いを提供する場として作った施設ですから、今のお客さまがいない状況は本当にさびしいです」

 

そう話す岡崎さんにインタビューさせていただいた場所は、宿泊者が自由にくつろげるキッチン付きのオープンスペース。筆者もここで仕事をしたり、読書をしたり、食事をしたりと、たくさんの思い出があるので、いちファンとしてさびしさを禁じ得ません。

 

ソーシャルディスタンスを確保しにくいドミトリースタイルは、「3密」になりやすいのが悩みどころ。そのため、お客さんが戻ってくるのは、宿泊施設のなかでも最も後になると予測されます。

 

「『3密』を回避するため、法規上難しい面もあるのですが、個室に近い形にレイアウトを変更することや、テレワークに使ってもらうことも検討しています。ホステル業界の同業者と情報交換をしていますが、やはりクローズしているところが多く、開けていても稼働率は5分の1とか10分の1程度とのこと。もし営業を再開できたとしても、一般のホテルが破格の価格を出していますからね。2500円のベッドではとても太刀打ちできません。価格競争という面でも厳しい現実があります」

 

実際、筆者が泊まった銀座の老舗ホテルも、通常の3分の1以下という前例のないスペシャルプライスでした。「北斗星」の場合、個室タイプが増えれば安心感は高まるでしょうが、これまでのようなリーズナブルな価格での提供が難しくなり、当然、厳しい価格競争に晒されます。そして、コロナ終息後、本格的に需要が回復したときに、今度はベッド数が足りなくなるというジレンマも。また、延期が決まった東京オリンピックが無観客、あるいは中止になれば、そのダメージも計り知れません。オリンピックを見越し、宿泊施設が急増した東京では、コロナ前から供給過多の状況が顕著になっていました。そうしたなか、熾烈な生き残り競争に直面していた同社の姉妹ホステルのひとつが7月末をもって閉店したそうですが、コロナが直接的な原因ではなく、コロナがとどめを刺したというほうが正しいようです。

 

根強いファンからの応援が励みに

 

いったい、いつになればインバウンドが元気になってくれるのでしょうか。常にアンテナを張り、最新情報をチェックしている岡崎さんによれば、星野リゾートの星野佳路代表は「来春で3~4割。本格的に戻るのには2~3年を要する」との見解を示しているそうです。

 

かといって、手をこまねいてばかりもいられません。同社では営業再開後に使用できる「未来の宿泊券」を発売中(下記URLから購入可能)です。「姉妹ホステルでも同様に宿泊券を発売していますが、『北斗星』プランがいちばん人気です。みなさんのお財布事情も厳しいことと思いますが、当初の想定よりもたくさん買っていただき、(現金収入が途絶えているなか)とてもありがたく、助かっています。このほか、メールなどで応援メッセージを寄せてくださるファンもおり、こうしたみなさんの声が支えになっています。心が折れそうなときも、頑張ろうという気持ちになります」

 

「未来の宿泊券」では、金額に応じ、ボールペン、Tシャツなどのオリジナル北斗星グッズが特典でもらえるので、興味のある方はぜひ。

 

苦境に立つ観光業を支援すべく、国が始めた「GoToキャンペーン」は、正直、誰をどのように助けたいのか明確ではなく、見切り発車の感は否めません。「観光業で日本を強くする」ことを謳ったインバウンドは重要な国策だったはず。ならば、国内旅行が活発化しても恩恵が少ない施設に対し、より手厚い支援があってもいいのではないでしょうか。岡崎さんも「コロナが終息すれば、外国人観光客は戻ってくると思うので、それまでの耐える期間に手助けがあればいいのですが」と訴えます。

 

多くの人の夢を乗せて、また「北斗星」が走り出すことを願ってやみません。

 

 

 

写真説明・ベッドは本物の寝台車と同じ仕様。旅気分が味わえます(写真はHPより)

 

 

取材協力

Train Hostel北斗星(現在休業中)

https://www.chillnn.com/17258d216a7375

東京都中央区日本橋馬喰町1-10-12

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