感染拡大が止まらないコロナ禍によって、世界的な観光地である古都・鎌倉市からも外国人の姿が消えてしまいました。鎌倉といえば、コロナ前はオーバーツーリズムの問題が注目されていた街。以前、市内の極楽寺に住んでいた筆者は、実際に大渋滞や江ノ電の積み残しなどを体験しています。首都圏に緊急事態宣言が発出される前の20年12月、鎌倉市観光協会会長の大森道明さんに「コロナ前」「コロナ禍」「コロナ後」の課題や取り組みについてお話を伺いました。なお、市政に詳しい事務局長の進藤勝さんにも一部補足していただきました。

 

大森道明会長(右)と進藤勝事務局長。
局長が手にしているカレンダーは2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」

 

コロナ前に直面したオーバーツーリズムの弊害

 

まずはコロナ前の状況から。鎌倉は道路が狭く、江ノ電も単線であるため、シーズン中の大混雑は避けられませんでした。江ノ電沿線に住んでいた筆者は、あまりの混みように乗車をあきらめ歩いたことが何度もあります。鎌倉の場合、散歩が楽しいので、個人的にはそれほど苦ではなかったのですが。

 

江ノ電は人気の観光路線であると同時に、住民の大切な生活路線でもありますから、不便や不満を感じる人も少なからずおり、市として対策を講じざるを得ませんでした。

 

「2017年から19年にかけ、市と実証実験を行い、地元住民の優先乗車システムを導入しました。アンケート結果では、『ありがたい』という声が寄せられています。近くの人は歩くことも多かったですからね」(進藤さん)

 

これはハード面に起因する問題点といえますが、外国人観光客の急増がもたらした弊害もありました。そのひとつが小町通りでの「食べ歩き」。歩きながら飲食すること自体、あまりお行儀がいいとはいえませんが、もっと深刻な被害があったそうです。

 

「串や袋をポイ捨てしたり、陳列棚に置いていったりするのです。このほか、汚れた手で商品を触ったり、店の前を塞いで他のお客さんが入れなくなったり。小町通りには、ゴミ箱が少なく、飲食スペースがないということもあるのですが。ガードマンを配置し、多少の改善はみられましたが、あくまで多少です」

 

ただ、こうしたマナー違反は、外国人だけの話ではなく、日本人にもみられたとのこと。文化の違いがある外国人(たとえば中国ではゴミを路上に捨てるのは日常茶飯事。エリアごとに道路清掃員がおり、ゴミを片付けるのが彼らの仕事と考えているので)よりも、日本人のほうが悪質という気がします。線路内や寺社などの立ち入り禁止区域への侵入にしても、自国での行為をそのまま疑問も持たずしているだけ。そのへんは大森さんも「悪気がないのは分かっているのですが」と一定の理解を示していました。要は周知ということでしょう。

 

 

※観光客が減り静かな小町通り

 

観光都市の恩恵を市民に還元する道の駅計画

 

コロナ前は年間2千万人もの観光客が訪れていた鎌倉。当然、経済効果はあるものの、インバウンドの恩恵を受けない地域住民にとっては、デメリットのほうが多いと感じるのも致し方ありません。大森さんは会長就任時、市会議員に対し「観光によって税収が上がっているのに、住民の不便解消のための施策がないではないか」と意見を述べたとのこと。また、観光関連で利益を享受しているのは、市外や県外に本社を置く会社が多く、地元へのリターンが少ないという課題もあります。そこで検討されているのが、老朽化した市営プールを道の駅に転用するプラン。物販・飲食などは鎌倉市に本社機能がある会社を優先的に選んだうえ、スタッフには市民を雇用し、道の駅で得た利益は少子・高齢化対策など市民生活向上のために還元するという考えです。

 

「これならば観光都市に住んでいてよかったと、住民も納得してくれるのではないでしょうか。道の駅に観光バスを収容することで、これまでの駐車場探しによる渋滞も緩和されるはず」と大森さんも大きな期待を寄せています。

 

この道の駅には、朝市や流鏑馬(やぶさめ)の実演も計画されており、実現すれば、新たな観光資源となることは間違いありません。

 

「流鏑馬は特に外国の方が興味を持たれているのですが、現状は伝統行事のときなど、年に数日行われているだけ。鎌倉へ来たらたまたまやっていたというのではなく、馬場を常設し、いつでも見学できるようになれば、観光振興につながると思います」

 

コロナ禍のさなか、このように先を見据えて手を打っておくのは非常に重要なこと。道の駅がオープンする頃には、コロナが収束しているといいのですが――。

 

コロナ後は鎌倉らしい「特別な体験」の提供に尽力

 

完全にインバウンド依存の観光地とは違い、首都圏からの来訪者も多い鎌倉は、それなりの活気を維持しているものの、国の「GoToキャンペーン」は逆にマイナス要因になったのだとか。

 

「GoToで人気なのは、高級な宿泊施設があるところですからね。宿泊客が少ない日帰り圏内の鎌倉にはメリットがありませんでした。それに、最近は遊びに来てもお土産を買わない傾向があるので、人出ほど経済が動いていない印象です。お土産を買わないのは、(外出自粛ムードのなか)職場などで出掛けたことを知られたくないからでしょうね。この20年くらいの間に、企業の保養所がほとんど消えてしまったのも痛いです」

 

観光地でお金を落とすのは、日本人より外国人。やはりインバウンドがストップしている影響は大きいようです。

 

コロナ後へ向けた戦略についても伺いました。

 

「従来とは異なる取り組みを進めています。団体バスツアーのお客さまはご自由に回ってくださいと。私たちがやるべき仕事は、お金を払ってでも特別な体験がしたいという人たちに、よい企画やサービスを提供することです。流鏑馬もそうですし、座禅、鎌倉彫、精進料理など鎌倉ならではの魅力ある体験はたくさんありますから。また、あじさいの時期は大行列になるのですが、予約制にし、順番が分かるようにできないかと考えています。そうすれば、無駄な待ち時間を周辺観光に使えますからね。スマホのアプリなどを活用すれば可能で、岐阜の白川郷などすでに採用しているところもあります。インバウンドブームを通して学んだことは、住民、日本人観光客、外国人観光客がいかに共存していくかが大事ということ。難しい課題ではありますが、『三方よし』となるよう努力していくつもりです」

 

鎌倉を愛する「元市民」として、再び多くの外国人観光客で賑わい、そしてその賑わいが地元の利益に資する「新しいかたち」が実現するよう願っています。

 

 

※駅からも近い妙本寺

 

 

取材協力

鎌倉市観光協会

http://www.trip-kamakura.com/

神奈川県鎌倉市御成町1-12

0467-23-3050

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