ジャパンドリームツアー株式会社 代表取締役

 

代表取締役
山野 浩二さん

 

新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本社会は甚大なダメージを負い、多くの人がゴールのみえない試練に耐えています。もちろん、このコラムのテーマであるインバウンド関連業界も例外ではありません。みなさん生き残りに必死ななか、とても「最新事情」を語れる状況ではないのですが、緊急事態宣言下の20年4月、筆者の知人であるジャパンドリームツアー株式会社代表取締役の山野浩二さんが、コロナ禍と向き合う心境や深刻な現状について、電話とメールでの取材に応じてくださいました。2013年に設立された同社はインバウンド専門の旅行会社で、忍者体験、相撲部屋見学といったオンリーワンのユニークな企画を打ち出し、参加者から好評を得ています。また、インバウンドを通した社会貢献活動にも力を入れており、2019年には都と三井住友銀行が認定する「持続可能な開発目標(SDGs)経営計画策定支援企業」に選ばれました。

 

今回は当事者の生の声をよりリアルに伝えるため、特別編としてインタビュー形式で紹介します。

 

コロナが終息すれば旅行市場は必ず復活する

 

——コロナ禍の影響を本格的に受け始めたのはいつ頃ですか

 

2月中旬からツアーのキャンセルが相次ぎ、3月は前年比マイナス90%、4月からはとうとうゼロになりました。多数の国が2月中下旬に発表した、日本行きの渡航自粛がその原因です。

 

——前年比で売り上げはどれくらい落ち込みましたか

 

2月がマイナス30%、3月がマイナス90%、4月はマイナス100%です。

 

——最もコロナの影響が深刻な業種といえますが、まったく終息がみえないなか、どのようなお気持ちで日々の業務に向き合われていますか

 

とりあえず、社員は感染拡大している都内に在住しているので社員の安全を考え、3月上旬から在宅勤務にし、仕事が少ない一部社員を休業としました。

 

また、会社存続のために、あらゆる融資に申し込みましたが、これまで売上をごまかさず、数億円ずつ伸びて黒字決算をしてきた実績があるので、月内で年内の運転資金は調達できそうです。もっとも返さねばならないのでそのあとは大変ですが。

 

——この苦境を耐え抜くための方策はありますか

 

インバウンド需要は、長期的に伸びる市場だと考えています。コロナ騒ぎが終息したら、前年比30~50%増しで市場が復活すると期待しており、そのための準備を今からしています。

 

うつむいて、国の悪口を言っていても始まらないですし、国は支援などしないと思っていれば、腹もたちません。自己防衛を自分でやると腹をくくれば、今できることをやっていくしかないと思っています。

 

——コロナに加えオリンピックも延期に。こちらの影響も大きいですか

 

実はインバウンド市場にとって、東京五輪は邪魔な存在なのです。というのも、東京都内のホテルがひと月以上前から予約できなくなり、しかもホテル代が高騰するからです。来年に延びたので、来年も同じことが起きますから、金を持った個人客以外のアジアの団体が中心の弊社にとって(五輪は)歓迎すべきものではありません。

 

——今の日本の状況を、アジアの人たちはどのようにみているのでしょうか

 

検査しない日本の体制に疑問を持っていますね。これは台湾でも中国でも韓国でもベトナムでもシンガポールでもインドネシアでも報道されています。弊社のスタッフは7か国から来ているのですが、みなそういっています。

 

厳しく移動を抑制している自国と比較して、「なぜ先進国である日本は検査数を増やせないのか? いまだに通勤電車が満員である現状を、お願いだけでやっていこうとしているのはなぜか」と聞かれて困っています。

 

前を見てコロナ終息記念キャンペーンを企画中

 

——日本もアジアもコロナがある程度落ち着いたとして、そこからどのくらいの期間で訪日旅行者が(コロナ発生前の水準まで)戻ってくるとお考えですか

 

終息してから約半年後です。過去SARSや東日本大震災でもそのようになっていましたから。

 

——御社の取引先にはホテルや観光施設、バス会社が多いと思いますが、どのような声が寄せられていますか

 

3月は悲鳴で、4月は沈黙です。すべてのツアーが国内海外すべてキャンセルになっており、弊社と仲のいい品川プリンスも、感染者用に部屋を貸し出しています。売上に困っているところが多く、これが半年続けば、大手以外のほとんどのホテルやバス会社は倒産するでしょう。

 

——非常事態宣言が出されたなか、多国籍のスタッフを抱える御社では、テレワークなど、どのような対応をお考えですか

 

テレワークは3月から実施中です。長期化するようであれば、事務所を解約し、テレワークで仕事を進められる体制に移行し、社員のデスクがなくなる分、本社機能を大幅縮小します。

 

——観光業全体が壊滅的な被害を受けていますが、国や政府は何を成すべきか、また、どのような形の支援を望みますか

 

このまま推移すれば、韓国や台湾などは日本よりもホテル代やバス代などが安いので、市場が回復した段階では、日本を選んでもらえないと思います。ですから立ち上がりの段階で大きな補助金をツアーに出して、彼らとの競争に打ち勝つ必要があります。補助金は、インバウンド会社に一律出す必要はありません。インバウンド会社が催行するツアーに対し、個別に補助を出すべきです。台湾や韓国に勝つために。

 

——新事務所(20年4月に移転)にインバウンドの象徴と言える「雷門」を選ばれた理由は

 

東京へ来る観光客のほとんどは浅草へ来ます。それは、パリのエッフェル塔、NYの自由の女神、バンコクの黄金の涅槃仏など、その地へ初めて行ったら必ず訪問する場所として位置づけられています。

 

そこで、弊社では、日本政府の観光ビザ発給条件の緩和で今後増加してくる個人や小グループを対象に、浅草でさまざまなサービスを展開しようと考えています。人力車の会社だけで20社もあるほどですから。もともと弊社は、団体のお客様を現地から呼んで、日本国内のホテルやバス、チケットなどの手配サービスをしてきたので、これまでしてこなかったサービスに注力していきます。そのために、浅草へ移転しました。

 

——どん底からの復活に向けてどのようなプランをお考えですか

 

上記に付け加えると、主要ホテルやバス会社と組んで、いまコロナ終息記念キャンペーンを企画しています。この時点でこんなことを話し合っているインバウンド旅行会社は皆無だと思いますが、年末から来年の春のツアー催行に向けて、現地旅行会社に企画を売り出そうと思っています。うつむいて、思考を停止していてもしょうがないですから!

 

コロナとの戦いは長期戦になりそうですが、山野氏のようなポジティブシンキングで苦境を打破していこうと奮闘する人たちの存在は頼もしい限り。誰もが安心して旅を楽しめる日が一日も早く戻ることを願ってやみません。

 

 

取材協力

ジャパンドリームツアー株式会社

http://japandreamtour.com

 

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