株式会社アグリファッショングループ

 

代表取締役社長
橋爪 恒雄さん

 

インバウンドにおける「観光」とは、いわゆる名所巡りだけではありません。最近のトレンドは「体験型」であり、それを農業の分野で実践しているのが、2016年に新規就農の20代女性による「十勝ガールズ農場」を立ち上げ注目を集めた橋爪恒雄さんです。NHKの朝ドラ「なつぞら」の舞台となった北海道の十勝(帯広市)を拠点に、中国・江蘇省の溧陽市で十勝のアンテナショップと観光農場の開設を進め、農業体験を通して北海道の魅力を伝えようと尽力しています。そんな橋爪さんに「観光と農業」の可能性についてお話をうかがいました。

 

十勝の魅力を中国で伝えていきたい

8年前、40代になったのを機に、奥様の実家が牧場で後継者問題(のちに解決)に悩んでいたこともあり、日本語教師から農業者に転身。欧州の観光融合型農業を参考に「十勝ガールズ農場」を始めたところ、大きな反響を呼び、中国や香港から多くの観光客が訪れるようになりました。

 

「トマムの星野リゾートで予約され、農場へ来られる方が多いですね。収穫を体験してもらい、収穫した野菜でランチを提供しています」

 

ただ、「ガールズ農場」自体は評判がいいものの、それだけで十勝に観光客を呼び込むには限界があるという現実も。

 

「中国の旅行会社で営業したことがあるのですが、みなさん札幌やトマムリゾートは知っていても、十勝はどこ?という感じで、想像以上に知名度が低い現実を実感しました。十勝川温泉などを組み込んだツアーで連れて来られるだけで、自分からは来ない。何かキラーコンテンツがあって、こんなセカンド、サードもあるといった複合的な戦略がなければ、観光客を集めるのは難しいと思います。結局は地道なPRのくり返しでしょうね」

 

1月にオープンした十勝のアンテナショップ「MELT GREEN CAOSHAN 北海道風格」には、まずは誰もが知る人気の北海道の魅力を広く発信し、そこから十勝を売り込んでいきたいとの思いが込められています。観光農場のほうは、まもなく正式オープンを迎える予定とのこと。中国との縁が生まれ、江蘇省初の農業法人を設立するに至ったのは、江蘇省塩城市からの農業研修生を受け入れたのがきっかけでした。そこで溧陽市政府の関係者と知り合い、農業を通じた観光振興の相談を受け、今回のプロジェクトが動き出したのです。

 

いつか「南京ガールズ農場」を

農業体験とはいえ、溧陽市は南京市から近く、非常に便利な場所にあります。人口は約80万。売り出し中の観光都市で「小上海」と呼ばれているそうです。

 

中国では今、「農家楽」というグリーンツーリズムがブームになっていますが、のどかな景色を眺め、田舎料理を食べるだけにとどまっています。その点、「十勝ガールズ農場」のパッケージをそのまま持ち込んだ橋爪さんの観光農場は、都市部からのアクセスがよいうえに、「体験型」の楽しみも盛り込まれているのが既存の「農家楽」と異なるところ。中国は今、ストレス社会のなかで癒しを求める人が増えており、都市生活者の多くは土に触れたことすらないので、大きな可能性を秘めているといえるでしょう。

 

「中国でグリーンツーリズムのニーズが高まっているのは、文化が成熟してきた証し。有機野菜への関心も高まっています。農村と都市部の格差が拡大している中国社会では、政府が農村振興のためにグリーンツーリズムを後押ししており、そのおかげで私たちも特例や優遇を受けることができました」

 

橋爪さんのプロジェクトが支持されているのは、コンテンツの素晴らしさだけではなく、地元の人たちとの確かな信頼関係があればこそ。経営者であると同時に農業者でもある橋爪さんと握手をすれば、その手の感触から、相手は「この人はちゃんと農業のことをわかっている」と認めてくれるのです。

 

橋爪さんの次の夢は、「南京ガールズ農場」を実現すること。北海道ブームの火付け役となった中国映画「狙った恋の落とし方。」(2008年公開)の脚本を担当した陳国富氏から、「ぜひやってみては」との提案があったそうです。

 

「彼女たちを日本へ農業研修に招き、その姿を映画化できたら面白いですね。『十勝ガールズ農場』と姉妹農場関係を結び、交流を深めていければ。『南京』というシンボリックな地で行うことも非常に意義があると思います」

 

江蘇省での農業体験を通して、多くの人が十勝に興味を持ち、実際に足を運んでくれる日はそう遠くない気がします。そして、日中農場ガールズのコラボも楽しみでなりません。橋爪さんが江蘇省で撒いた“種”は、おいしい野菜とともに、ワクワクするようなプランも着実に育んでいます。

 

 

 

取材協力

株式会社アグリファッショングループ

北海道帯広市大正本町本通3-6

0155-67-9918

目次に戻る