この記事のまとめ
担当者Xは、頭痛を感じていた。
昼休み。社内食堂のテーブルでのこと。
目の前に置かれているのは、某教育会社が実施した『研修実態調査』の結果である。
そのなかにある【不満の理由-受講者の不満の理由】の項に記された内容を見てのことだ。
その日の午前中、研修満足度に関する厳しい現実を突きつけられた彼は、
昼食を摂って心を落ち着けた後、更なる深淵へ迫るべく、再び調査資料を手にしたのである。
そして、その深淵のまだ入口くらいのところで、早くも逆風に晒されたのだ。
調査結果に記されていた受講生の〔不満〕のトップは「フォローがない/やりっぱなし」。
次いで「非現実的/役に立たない」「簡単すぎる/当たり前」など、研修内容に関する項目が上位に並んでいた。
にわかに胃の辺りが痛みを訴えてくるのは、果たして昼食に選んだ激辛坦々麺のせいなのか、あるいは別の理由からなのか。
この結果は、研修の目的による部分も大きいだろうな。
担当者Xは、マイナス思考に身を絡められることなく、客観的な分析を試みる。
たとえば、基礎知識を習得するような目的の研修であれば、手厚いフォローは必要としなかったり、実務とはやや離れた内容を扱う場合もある。
共通認識を作るためには理解度の低い側に合わせる必要があり、その場合は人によっては簡単すぎる。
問題は、そうした目的や意図が、ちゃんと伝わっているかどうか‥か。
目的や意図が理解されていれば、不満を抱くことも少なくなるだろう。
研修実施に際してどのように伝達するのかが、この不満を大きく左右すると、彼は考えた。
実施前に原因があるものとしては、これも同じだな。
次に担当者Xが注目したのは「受講生のモチベーションのばらつきが大きかった」という項目である。
全体で第4位なのだが、30代に限れば、男性は第2位、女性は第3位に順位をあげている。
30代という年代は、人によって仕事の立場や役割、意欲に変化が出てくる時期であり、それがそのままモチベーションに影響を与えているのだと考えられた。
当然、そうした人たちを、同じ年代・年次だからとまとめて研修を行えば、不満は出てくるであろう。
これらの要因は、教育担当者側に責を置くものである。
研修内容にばかり気を捉われず、どう企画・運営するかが重要であると読み取れた。
悩みは尽きないものだ‥
食後のコーヒーが、普段より苦く感じられた。
あ、さっきの調査の続きですね? 私にも見せてください!
沈鬱した気分を破る声の主は、同じ部署で働く後輩Yである。
彼女も昼食に食堂を訪れていたようで、手にしたトレイをテーブルに置いて、担当者Xの向かいに着席した。
担当者Xは、あまり気が進まなかったが、彼女の求めに応じて、受講生の〔不満〕に関する調査結果をかいつまんで説明した。
ちょっと意外ですね。私てっきり、もっと別の不満があるのかと思ってました。
後輩Y曰く、彼女が想像していた受講生の〔不満〕とは、忙しい中で研修に呼び出されることへの〔不満〕など、環境的な要因が大きかったという。
数字、数字!なんて頭ごなしに言われてるなかで、1日も職場を離れるなんて大変ですからね。
彼女のその意見は、調査票からも裏付けられるものであった。
担当者Xが注目したのは【階層別研修】における調査結果である。
担当者側が想定する〔不満〕と、実際に受講生が感じている〔不満〕。2つの数字を見比べる。
私たちは大きな思い違いをしているのかもしれないな。
「業務の忙しさ」を気にする担当者と、「やりっぱなし」を嘆く受講生。
考えようによっては、真反対ともいえる理由である。
業務を気にして研修負担を減らすほどに、受講生は不満を高めているのかもしれない。
やるからにはちゃんとやりたいって、そういうことですかね。
至極当然のことではあるが、見落としていたことかもしれない。
受講生の多くにおいて、業務が忙しいことに変わりはない。
なんでもかんでも時間をかけて、手厚く行えばよいというものでもないのは確かだ。
一方で、研修に対する受講生の期待も存在することは確かである。
思い込みが一番の敵か‥
調査票に目をやりながら、担当者Xは、苦みだけが残ったコーヒーを飲みほした。
ほらほら、あんまり難しい顔ばかりしてると、良い部分を見落としちゃいますよ!
担当者Xを元気づけようと、後輩Yは明るい声で言った。
彼女が指し示すのは、担当者Xがはじめに見ていた受講生の〔不満〕に関する資料である。
このあたりの項目は、ずいぶん不満が下がっているじゃないですかす。
調査結果全体の傾向として、以前の調査に比べると〔不満〕の比率は下がっている。
そのなかでも、「非現実的/役に立たない」「実際の業務と関係ない」の2つの項目は半減していた。
「研修の実用度」に関するこれらへの〔不満〕が減少しているということは、「研修が役立っている」という結果に、少しずつでも近づいていることを示唆する。
問題や課題はまだまだ残っているが、教育担当者たちの歩みは、決して間違ってはいなかった。
改善しているとはいえ、まだ〔不満〕の上位に残っているのだから、楽観するわけにはいかないがな。
相変わらずストイックですね。あんまり思い詰めてばかりいると、身体を壊しちゃいます! それに、難しい顔して考えた研修企画で、受講生が明るい顔なんてしてくれませんって!
後輩Yは、担当者Xをからかうように笑った。
彼女の発言内容は、確かな因果を伴うものなのか、その調査結果は存在しない。
ただ、彼女を見ていると、なぜだかわからないが、幾ばくかの真理を突いているようにも感じられた。
じゃあ、午後の準備があるので、先に戻ってますね!
普段通りの元気な様子で去っていく後輩Yを見送りながら、担当者Xは、いつの間にか胃の痛みが消えていたことに気が付いた。
後輩Yに励まされながら、研修企画の改善に着手する担当者X。
受講生の〔満足度〕を高めるために理解すべき「受講生の期待」とは、
教育担当者にとっての福音となり得るものなのか。
次回の記事へ--つづく。
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本記事は、株式会社アイ・イーシーが2017-2018年に実施した「研修実態調査」の結果をもとに作成しています。より良い研修プログラムをご検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。
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2018年10月20日 公開