この記事のまとめ
担当者Xは、眉をひそめていた。
彼が手にしているのは、某教育会社が実施した『研修実態調査』の結果である。
そのなかにある【受講者の目的達成度(満足度)】の項に記された内容を見てのことだ。
通常、研修の〔満足度〕は、研修後に実施するアンケートで測られる。
しかし、担当者や上司が回覧するアンケートにおいて、受講生の本音が語られることは少ない。
そのため「満足度平均3.8」といった結果が出ても、そのまま信じてよいかは疑わしい。
そうした疑念があり、担当者Xは根拠となるデータを求めていたのだ。
そして、事実が白日の下に晒される。
調査結果に記されていた受講生の〔満足度〕は、半数を少しだけ上回る「55.8%」という数字。
「満足度平均3.8(5段階評価)」の割合とは、大きく異なる数字であった。
この数字をどのように捉えるのかは、人それぞれである。
色々な受講生がいるなか、半数以上に満足してもらえるなら上出来だろうか‥
と、前向きに考えることもできる。
担当者Xも、正常性バイアスの作用も手伝って、
調査結果を深く考察することなく、そう理解することにした。
しかし、その努力は無に帰する。
ページを繰った先に記された調査結果により、
件の調査結果は、担当者Xにとって看過できないものとなったのだ。
続いて記されていたのは【<受講者>の目的達成度(満足度)-企画者との比較】という項である。
つまり、企画側と受講側の〔満足度〕に、どれだけの差があるのかを調査した結果だ。
企画担当者側では十分できたとの自負が窺える一方、
研修受講者側ではやや厳しい判断を下していると言える。
この事実に、担当者Xは強い衝撃を受けた。
企画側が考えているほど、受講側は満足していないのだ!
どうかしましたか? 顔色が優れませんよ?
狼狽する担当者Xの背後から、気遣いの声が聞こえた。
振り返ると、同じ部署の後輩Yが立っていた。
彼女は調査資料を覗き込み、担当者Xの苦悩の理由を察する。
そして、しばし考え込んだ後、フォローの言葉を絞り出した。
ほら、満足度って、研修によって差があると思います。
この前おこなった労務管理研修なんて、企画側の都合が大半じゃないですか。
たとえばそんな研修だと、よほど現場の声に耳を傾けて企画を考えないと、
受講生の満足度も下がってしまうんじゃないですかね?
その労務管理研修を企画したのも私だ!!
担当者Xの内心の叫びなど、当年の新入社員である後輩Yに知る由もない。
ただ、後輩Yの主張に一理あることは、担当者Xも認めた。
もしかすると自分がメインで担当している研修は、異なる結果なのかもしれない。
もっとも満足度にギャップがある研修とは--なんなのだ?!
期待と不安を胸に、震える指先で担当者Xは更に一枚ページを繰った。
企画側と受講側の〔満足度〕のギャップがもっとも大きかった研修、
栄えある第1位に輝いたのは--【階層別研修】であった。
へー、そうなんですね。当たり前のようにおこなってる研修だから、ちょっと意外かな。ところで、うちの【階層別研修】は誰が企画したものなんですか?
-----!!!
新入社員特有の悪意なき素直さは、ときに先輩諸氏の心を深く傷つける。
レジリエンス研修で学んだことを思い出せ--私--!
柳のように折れない心とは、このようなときにこそ求められる。
“自社の【階層別研修】企画者”である担当者Xは、
最近流行りの研修で学んだことをここぞとばかりに発揮して、平静を装ってみせた。
それは--
そして、希望に輝く未来を見据えた眼差しで、
後輩Yの問いに、ただ一言だけ答えたのであった。
より〔満足度〕の高い研修を実施すべく、これから私たちが企画していくものだ
教育担当者に、悩みは尽きない。
研修制度の柱【階層別研修】の〔満足度〕に、もっとも大きなギャップがあるという事実。
それは、研修企画の根本的な見直しを求めるような“目を背けたい”真実である。
だからと言って、彼らに求められるものとは、後悔や自己欺瞞などではない。
事実を直視し、失敗すらも糧にして、前へ進んでいく姿勢である。
わー、かっこいいですねー! がんばりましょうね!!
後輩Yの無邪気な歓声を背に、
担当者Xは、とりあえず、昨年の研修企画資料を引っ張り出した。
自身の肝入りにして、研修制度の柱である【階層別研修】。
その〔満足度〕に、大きなギャップがあるという事実は、担当者Xの存在意義を問い質すものであった。
逃げ出したくなる気持ちを寸前のところで押さえ、彼はページを繰っていく。
受講生の〔満足度〕を高めるために理解すべき「不満の原因」そして「受講生の期待」とはなにか。
次回の記事へ--つづく。
〇お問い合わせ
本記事は、株式会社アイ・イーシーが2017-2018年に実施した「研修実態調査」の結果をもとに作成しています。より良い研修プログラムをご検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。
株式会社アイ・イーシー 企画開発部 研修開発室
Tel:03-3263-3306 Mail:kensyuteam@157.205.12.197
2018年9月20日 公開