懸賞金、と聞くと小説などの公募や指名手配犯にかけられたものを想像するかもしれませんが、数学の世界にも懸賞金が存在します。特に有名なものにアメリカのクレイ研究所が2000年に発表したミレニアム懸賞問題というものがあります。これらは数学の問題の中で特に重要かつ難しい7つの問題に懸けられたもので、問題を解決すると100万ドル(約1億1000万)の懸賞金が与えられます。
<7つのミレニアム懸賞問題>
1 ヤン-ミルズ方程式と質量ギャップ問題
2 リーマン予想
3 P≠ NP問題
4 ナビエ-ストークス方程式の解の存在と滑らかさ
5 ホッジ予想
6 ポアンカレ予想
7 バーチ・スウィーナトン=ダイアー予想
皆さんも一攫千金を狙って、チャレンジしてみはいかがでしょうか?と言いたいところですが、その難易度は天才数学者達が一生かけて取り組んでも解決できるかどうかわからないレベルです。もはや内容を理解するだけでも一苦労・・というか不可能と言いたくなるものばかりです。例えばバーチ・スウィーナトン=ダイアー予想の概要は「楕円曲線E上の有利点と無限遠点Oのなす有限生成アーベル群の階級が、EのL関数L(E,s)のs=1における零点の位置と一致する」とあります。読んでいるだけで頭が痛くなりそうですね。
そんなミレニアム懸賞問題ですが、一つだけすでに解決されたものがあります。それは6番目のポアンカレ予想で2002年から2004年にかけてロシアの天才数学者グレゴリー・ペレルマンによって解決されました。その功績が認められ、クレイ研究所は2010年に正式にペレルマンのミレニアム賞受賞を発表したのですが、彼は授賞式に顔を出すこともなく、賞金も受け取りませんでした。また数学界のノーベル賞とも言われるフィールズ賞も与えられるのですが「証明が正しければ賞は必要ない」と言って、こちらも受賞を辞退し、やはり賞金も受け取りませんでした。彼は今、数学の研究と趣味のキノコ狩りをしながら、わずかな貯金と母親の年金で細々と暮らしていると言います。「なんでやねん」と思わずツッコミたくもなりますが、天才の考えることは凡人には理解できないということかもしれませんね。彼は受賞を辞退した理由として「宇宙の真理がわかったというのに、100万ドルを受け取るかどうかなんてどうでもいいことだ」と言ったとか。
ここまでの話を聞くと、数学の未解決問題というのは凡人の理解の及ばない世界だと思ってしまいそうですが、中には小学生でも理解でき、一見すると中学数学程度の知識があれば解けてしまいそうに見えるものもあります。その一つがコラッツ問題と呼ばれるもので、その概要は「nが奇数なら3倍して1をたす、nが偶数なら2で割る、この操作を続けていけばどんな数でもいつか必ず1になる」というものです。例えば6でやってみると、6→3→10→5→16→8→4→2→1となります。 私も一度ダメ元でチャレンジしてみたことがあるのですが、何とかなりそうでこれが何ともなりません。不思議なものです。
証明というのは数学では最も重要なジャンルの一つであり、多くの数学者がその魅力に取り憑かれてきました。人生をかけて一つの問題に取り組んだものの、証明できないまま非業の死を遂げた数学者は数知れません。数学者がこれほどまでに証明に惹かれるのは、その絶対性と永遠性にあります。他の自然科学では正しいと思われていた理論が、新たな発見によって覆されるといったことが決して珍しくありません。しかし数学の定理はいったん証明されれば、この世界のどこであれ永遠に正しいことが保証されるのです。かのガリレオ・ガリレイは「宇宙は数学という言語で書かれている。これがなかったら、宇宙の言葉は人間にはひとことも理解できない」と言いました。ガリレオのこの言葉の根底には数学という学問だけが持つ絶対性と永遠性、つまりは神性とも言うべき性質があるのでしょう。