前回までで「遠くから借りてくる」アナロジー思考の概要について解説しました。今回から、その具体的な発想法について説明したいと思います。
近年では人材を「人財」と表現する企業も増えてきています。これは「ヒト」も企業の生産手段の一つの「材料」で考えるという発想から、一人一人の社員の「頭脳」を貴重な「財産」ととらえようという発想であり、重要な発想の転換だと思います。
これ自体がアナロジー思考の産物であるわけですが、「人は大事な財産だ」と言いながらもなかなかこの考え方を「骨までしゃぶっている」企業も少ないのではないでしょうか。
「人は財産である」というわけですから、アナロジー発想的に言えば、「財産」の扱いを「人」の扱いにあてはめてみるとどうなるでしょうか。例えば、どんなものを所有している「財産目録」の発想を「人材スキルの棚卸し」に活かせないでしょうか?さらには「財」といえばお金ですが、お金を増やしたり管理したりする手法というのは金融の世界で様々な方法論になっています。例えば多様な金融資産のリスクやリターンを考慮しながらベストミックスを考えるという「ポートフォリオ管理」の手法は「人」にも応用することができるでしょう。
単一の通貨や証券のみを保有しているというのはある意味でリスクが大きいというのは人材にも言えます。これまで日本の強みであった画一的な人材育成というのは変化の大きい環境下ではリスクにもなり、そうした環境変化に柔軟に対応するには「多様な人材を有している」ことへの気づきもここから得られるのではないでしょうか?
この他にも人材育成のアイデアを「離れた世界から」持ってくるという例を考えてみましょう。単純に競合他社のやり方を「真似する」というのはアナロジー思考にはなりませんでした。自業界よりは他業界、ビジネスの世界よりはビジネス以外の世界(落語や歌舞伎等の伝統芸能とか)、人間の世界よりは人間以外の世界(生物の「親子関係」を上司部下の関係にあてはめてみるとか)、最近の事例よりは遠い昔の事例(歴史であればなるべく昔の歴史から学ぶとか)、仕事よりは遊びの世界(スキーやテニスの育成方法から学べないかとか)・・といった具合にアイデアの源はほぼ無限にあることがわかります。
さらには、さらに長期のキャリアプランを考える上での発想も別の世界から持ってくる事が可能です。「キャリアプラン」を「成長戦略」と考えれば、企業に用いられている戦略やマーケティングの手法というのは、ビジネススクール等で研究が進んでおり、参考文献もたくさんありますから、そこでの手法を個人の成長戦略にあてはめることができます。よく使われる手法やフレームワークで言えば、自らの強み弱みを見極めて今後の機会や脅威に対応させる「SWOT分析」、「マーケティングの4P」、まず「あるべき姿」を描いてから現状とのギャップを抽出してそれを克服するためのギャップ分析等、「組織」で用いられている手法はほとんど個人にも当てはめられることがわかるでしょう。また、よく混同して語られることの多い個人の「業績」(パフォーマンス)と「能力」(コンピテンシー)というのも「フローとストック」という関係性との類似で考えれば「P/LとB/Sの違い」と考える、育成における「能力」の位置づけがより明確に理解できるのではないでしょうか。
この他にも応用の分野は考えられると思いますので、皆さんもぜひ他の例も考えてみて下さい。