――1年を通してほとんど休みなく練習をされているとのことですが、その中で大変に思ったことなどありませんでしたか?
365日のうちの360日くらいは練習しています。だから、時間がとれないんです。一般的な、普通といわれている人たちの暮らしぶりができない。当然ですけど、家内には迷惑をかけるんですよ。それで、自分の中で区切って「30歳までに東北で総合優勝がしたい」と。総合優勝ができて、その後、自分の中でコーチとしての芽があるなと思ったら、その後もやらせてもらおうと考えていました。だけど、とりあえずは「30歳になるまでは目をつぶってやらせてほしい」と言っていました。
結果的には、そこで目標は達成できた。ただそれは、なんにもやってない子たちに、どんどん練習をさせていって、そしたらうまくいったというだけです。ある程度やったら、東北で勝てるくらいのチームにはなりました。
――そして、次の目標を立てていくことになった。
それから家内のほうには「あと10年間やらせてほしい」と。その頃から、自己啓発書をすごく読むようになって。20代の後半くらいですか。そこで書いてあるのが、全部「長期の目標をちゃんと持ちなさい」「長期の目標をもてば、ちゃんと成功する」と。「そうか、じゃあ持とう」と考えました。
20代の頃は、今思えば、まだ中期目標でしたね。3年から5年の中期目標を持っても、それだけ信じちゃダメ。なぜ長期目標を持てば成功できるのか。それもわからなければ、成功できないですよ。どっかに書いて、その紙を貼って、毎晩トイレに入っているときに読めば成功するっていっても、そんなことはないって。
――長期目標とは、具体的にどういうことなのですか?
甲子園とか、駅伝とか、サッカーだとか、終わった後で、新聞に必ず談話が載っていますよね。そこに書いてある内容は、短い言葉で紹介してありますけど、素晴らしいことが書いてあるんですよ。そこで気付いたんですよ。そうか「分相応」じゃないかって。分相応っていうのは、「分相応の暮らしをしなさい」とか悪い使い方をよくしますけど、そうじゃなくて。「分相応のものが返ってくる」ってことなんですよ。つまり日本一の選手を育てたかったら、育てられるだけのコーチの格を作れということです。
うちの大学に初めに来たときに、私を誘ってくださった前任者がいました。その先生が最初におっしゃったのが「強兵のおかげで弱将も強く見える」。それでもね、たまに速い子は出てくるわけです。それで、勘違いするんですね。強兵のおかげで。そうじゃなくて、共にいけるようにならなきゃダメなんだと。そのために、自分の分をあげる。そのためには、時間がかかる。それで10年なんだと。10年かけて自分の分を上げていって、40になったときに、才能ある子たちが来たときに、自由自在に育てられるだけの力を自分でつければいいんじゃないかと。そこからですよ、ものの見方が変わったのは。そういうのを気付いてから「ああ、なるほどな」と。
――基礎理論を学び、独自のトレーニング方法を開発する。その目的となるものはなんでしょうか?
最終的には、速くすること。パフォーマンスを、その子の持っている潜在能力を、どれだけ引き出せるか。どうしたら自分の能力を引き出すことができるかを、自分で見つけてこさせるんですよ。「ここにあるやん!」て言って見つけても、なんも嬉しくないですよ。見つけてあげて、それで勝ったとしても、なにが嬉しいの、選手って。ちょっと見えそうに置いといてあげても、それを自分で「見つけたー!」っていったときの、あの喜び。「よかったねー」って、それで伸びていけばいい。その子が自分の潜在能力を、自分で引き出す。それを我々は、ただ手助けするだけですよ。もちろん、見やすいようにはしてあげますし、見つけ出すものはこちらできちっと考えておく。
その目的のためには、なにを見つけなければいけないのか。それを、ちゃんとコーチが一人ずつ考えてあげる。最終的には、自分で上がっていくんだと思いますよ。そうやっていきながら、コーチの仕事、選手の仕事と、二人三脚で進む。