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創考喜楽

vol.8 「はい、わかりました」の 幻想

COLUMN

日本人同士の会話の中で、部下が「はい、わかりました」と言えば、通常、上司は「きっと依頼したとおりのアウトプットを出してくれるだろう」と期待します。依頼内容は必ずしも明確でないことが多いのですが、おおよそ期待イメージに近いアウトプットが出てくる可能性が高いのです。しかし、相手が現地人材ですと、アウトプットを見て愕然とすることが案外多いのです。

 

海外拠点の日本人駐在員が、『先週話したとき、「はい、わかりました」と言ったよね!でも全然わかってないじゃない!?これはお願いしたことと随分違いますよ!』と現地社員を叱っている場面をよくみかけます。
現地社員が「はい、わかりました」と答えたのは事実ですが、実は、現地社員の「はい、わかりました」には3つのケースがあるのです。

 

1つ目は、依頼、指示、期待されたことを本当に理解できているケースです。このケースでは、日本人駐在員に叱られることはありません。一般的な日本人駐在員から「無言のうなずき」でアウトプットを認知してもらうことになりますが、グローバル人材の日本人駐在員からは「○○はよくできたね」「○○はいい仕事だね」という具体的な褒め言葉をもらうことになるでしょう。

 

2つ目は実際のところ最も多いケースです。
日本人駐在員があれやこれやといろいろ話して伝えようとしている場合、現地社員は「きっとこういう内容をお願いされているのだろう」と自分なりに解釈して「はい、わかりました」と返事してしまいます。自分の解釈に不安がある場合は確認の質問をすることもありますが、そうでなければそのまま時間が流れてしまいます。通常この場合、日本人の「期待内容」と現地社員の「解釈」にズレが起きてしまい、日本人が「えっ!?」と感じるアウトプットが出てくることが多くなるのです。
また、日本人が「簡潔な言葉」あるいは「抽象度の高い言葉」で言葉数少なく伝えた場合は、「言葉は理解できた」という意味で「はい、わかりました」と返事していることが多いです。しかし、この場合、「言外に含まれること」がたくさんあり、それらが言葉で表現されていないため、通常は「もの足りない」アウトプットになり、結果的に「期待内容」とズレが起きてしまいます。
このようなことを避けるためには、日本人が適切で正確な言葉を選択し「期待内容」を論理的にわかりやすく表現することができるようになることが必要です。ただ、その状態にたどり着くには個人差もあれば時間もかかりますので、現実的な対策が必要になります。
日常的に可能な現実的な行動は、相手が「はい、わかりました」と言ったときに、「わかったことをちょっとしゃべってみてくれますか?」「わかったことを白板にちょっとまとめてみてくれますか?」と言ってその場で確認してみることです。相手の理解が不十分なケースが多いことに案外気づかされるはずです。このような質問をすることは相手が日本人ですと少し躊躇してしまいますが、相手が外国人なら、「お互いわかり合えなくて当然」という前提がありますので、特に遠慮せずに質問して確認する方がよいのです。

 

3つ目は、常日頃、日本人駐在員から上から目線でガミガミ言われている中で、現地人材が日本人駐在員を感情的に受け入れられなくなり、早くその場から退散したいと感じているケースです。このケースの「はい、わかりました」は、「はい、(あなたが上長として執拗に命令をしていることは)わかりました」という意味で、期待されている「内容」がわかったということではないのです。この場合、会話がかみ合う確率は極めて低くなりますので、まずは、「自責」で感情の「もつれ」を解く努力をしなければいけません。

 

現地社員が「はい、わかりました」と返事したときには、3つのどのケースなのかを見極め、自分がとる次の行動を決めることが大切なのです。

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