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創考喜楽

vol.2 「会社のため」を優先する 行動の呪縛を解く?

COLUMN

日本の企業社会では「会社のため」に働くことが「自分のため」に働くことよりも優先され、通常、それが何の疑いもなく常識的な行動と見なされています。素朴な問いかけですが、なぜ、日本人は「会社のため」を優先するようになったのでしょうか?

 

答えは、バブル崩壊までの右肩上がりの時代に一般慣行となった終身雇用が「会社のため」を優先する行動を求めてきたのです。終身雇用的慣行のもとでは、本質的に、会社は社員に「(定年までの)雇用の保障」をGIVEし、社員から「長期貢献」と「(やりたいことができない場合の)辛抱や我慢」をTAKEすることになります。このため、日本人は会社に入社すると同時に、会社に対する忠誠心と個人を犠牲にしても会社に尽くす行動を求められるのですが、このGIVE&TAKEの関係のもとでは、大変理にかなったことといえます。

 

しかし一方で、バブル崩壊後は会社が社員にGIVEしてきた「雇用の保障」の形が崩れてきました。正社員の給与が定年まで上がり続けることはなくなりましたし、定年を待たずして早期退職優遇制度などのリストラが実行される確率も高くなりました。つまり、従来のGIVEが不安定になったのです。にもかかわらず、多くの日本人サラリーパーソンが「会社のため」を優先して行動し続けることは、世界のレンズから見ると大変不思議なことで、日本人がお人よしに見えてしまっても仕方ありません。

 

海外では、会社は社員に「役職」と「(それに相応しい)報酬」をGIVEし、社員からは「成果」をTAKEします。海外の会社が社員に「雇用の保障」をGIVEすることはまずありません。ですから、社員は「会社のため」に忠誠心をもって働くことを優先する必要がないという理屈になるのです。

 

中国では、改革開放後、たくさんの会社が設立されましたが、同時にたくさんの会社が倒産しています。中国の情報統制上、この事実に関わる中国メディアの報道は少ないですが、実際のところ、中国人は肌身に感じているのです。そのため、中国の家庭では、親は子供に「会社はいつ倒産するかわからないので信用してはいけません」「自分を信じて生きていきなさい」「自分の市場価値を上げて自分を守りなさい」と教育します。もちろん、国も信じていないと思います。苦笑。さらに、日本のような強い解雇規制を伴う終身雇用的慣行もありません。したがって、中国人は「自分のため」に働くことを優先し、会社は自分の価値を上げるためのひとつの場にしかすぎないと認識します。この行動原則は、実は、中国だけでなく米国をはじめとする世界のほとんどの国で「常識的」なのです。
中国の日系企業で現場の中国人同士がお互いに責任を押し付け合って問題解決しないことがよくあります。このとき、日本人が中国人の当事者たちに「会社のため」という視点で問題を解決しないと顧客に迷惑がかかるでしょ?!と注意しても中国人には響きません。仕事は上司との関係の中で「自分のため」にすることが常識なのでピンとこないのです。したがって、このような行動原則の根本的な「違い」を正しく理解したうえで、日本とは異なる方法で問題解決しなければいけないのです。

 

以前、サッカーアジアカップで日本代表(ザックジャパン)が優勝した直後、本田選手がインタビューを受けたときのことです。「いやー、日本のために、ザックジャパンのために優勝できてよかったですね!一言頂けますか?」の質問に、3秒ほど考えた後、「・・・というよりも、自分のために勝ててよかったです!」と彼は素直に答えました。
「自分のため」がタブー視されている日本の社会では「印象の悪い」回答です。しかし、この答えは本モノのグローバル人材ならではの答えだと思います。表面的に「チームのため」という“受けのよい”表現をする長谷部選手や他の選手でも根本には強い「自分のため」があるのです。ビジネス界においても、組織人として表向きは「組織のため」という表現をしても、「自分のため」の目標を決め自分の価値を上げる努力をする人材こそが、外国人と感度を合わせて互角に仕事ができるグローバル人材として活躍できるのだと思います。

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