前回は人材育成に関するアナロジーの具体例をお話しました。今回はそうしたアナロジー思考をうまく導入するためのコツについて説明します。
アナロジー思考を行う上で重要なのは、一見異なる分野の間の「構造的な類似」を見つけることでした。つまり、色や形といった見た目が似ているといったような単なる単品の「属性」の類似ではなく、複数の事象間の「関係性」あるいは、それらをさらに複数組み合わせた「構造レベル」で似ているものを探してくることがアナロジー思考の肝ということになります。
共通点を探すことがアナロジー思考の第一歩である以上、思考回路を起動するためには常に様々な世界と自分が関係する世界との何らかの共通点を探そうという姿勢は必須といえます。ところが人間の思考の癖というのはこれとは真逆に働くことがよくあります。つまり、「あの成功例は特殊だから」とか「あの人は◯◯だからうまくいったけど自分の世界は違うから参考にはならない」とついつい考えてしまうということです。これはアナロジー思考には大敵といえます。そうなれば、それ以降は何かから学ぶということを放棄することを意味するからです。自分や自分のやっていることは特別だと思いたいという感情は十分理解できますが、恐らく「自分が思っているよりは客観的に見た方が特殊性は小さい」と考えるのが多いケースが圧倒的だと思います。
「まずはどこが似ているのか」と考えて様々な構造的類似の可能性を探るのが考えるという行為です。そこから全てが始まると言っても過言ではないでしょう。そのために必要以上に自分の置かれた環境を特別視することは危険です。
そう考えると、「謎掛け」というのも「常に共通点を探す」という点ではこうした姿勢を養うために有効なツールとも言えるでしょう。
「共通点を探す」ことが重要である反面で、有効にアナロジーを活用するためには、「相違点」も明確に意識することが同程度に重要です。あまりに全てのものが同じであると考えるのも逆に「短絡的な思考」ということもできます。極端な例をいえば「パソコンも車も『機械』だと考えれば一緒だよ」という議論を一般的には一般化の行き過ぎということが言えるでしょう。このように、共通点を見つけるのと同様に相違点を見つけることもセットとなってアナロジー思考をする上では必須の考え方ということができます。
ここまで「共通点」と「相違点」を見極めることの重要性をお話してきましたが、ここで注意すべきことは、あくまでも2つの世界の共通点や相違点というのは目的に応じて変化するということです。例えば「男性と女性」というのも、災害時の飲料水を確保するための見積もりをするのであれば、どちらも同じ一人の人と扱っても良いですが、化粧品の一人当たりの消費量を計算するという視点から見れば「全く違うもの」という風にみることができます。このように、目的次第でいままで相違点のように見えていたものが共通点に変わるといった可能性もあります。その意味では、「一見異なるものの共通点を目的に応じて使い分ける」というのがポイントとなるでしょう。