創考喜楽

ことわざ科学館

ツルは千年、カメは万年

It means... 長寿や縁起を祝う言葉として使われる。長生きで、めでたいことを意味します。

動物の寿命

 

ツルとカメは、日本ではめでたい動物の代表として、結婚や長寿の祝いなどによく登場する。たしかに、ツルの優美な外観はすばらしいし、カメの落ちついたどっしりとした姿勢は、「ウサギとカメ」の話と重なって、我慢と努力のカタマリに受け止められる。人間にとって見習うべき姿がそこにあるというわけだ。この“千年”“万年”というのは、ツルとカメが長命だとする中国の伝説からきた言葉である。だが、現実に千年も万年も生きられるのかというと、とんでもない話で、およその値としてツルは90年、カメは100年というのがいいところだとされている。

 

動物の寿命を決める要因として、最も有力視されるのは、生体の内部環境が落ちついて一定の条件が長く持続することである。神経、内分泌、免疫、体温調節などの働きが、外部環境にできるだけ影響されずに、一定のペースを維持するということで、一般に高等動物であるほど、この条件にかなっている。とはいえ、100年の大台に乗るものは数少ない。無脊椎動物では、比較的寿命の長いものでも記録で、ヒルの20年、ミミズの10年、カミキリムシの30年だし、脊椎動物でもゾウの60年、サイの40年、ラクダの40年、ウマの30年で、100年を超えるのはナガスクジラとシロナガスクジラぐらいだ。鳥類は一般に長寿命で、オウムとインコは130年、カラスは100年、ハヤブサは150年以上などといわれるように健闘しているものの、“千年”にはほど遠い。
 

ツルとカメの千年、万年は、「白髪三千丈」と同様に、中国流の過大で派手な表現だったわけだ。なお、ナポレオンとともにセントヘレナ島に渡った彼のカメは、主人のナポレオンの死後100年以上も生きたとされている。このような生存年数は別として、私たちはせいぜいツルのよいイメージを生活の手本にし、自信を持ち、背筋を伸ばして堂々と生きるべきだろう。ツルの心意気をうたったことわざに「ツルは枯木に巣を作らず」というのがある。枯木は風で倒れやすいので、そんな頼りない所にツルのような“大物”の鳥は巣を作らない。つまり、人間でも大人物や賢者は、自己の才能にふさわしくない所には身を寄せないというのである。別のことわざにいう「大魚は小池に棲まず」と似ている。

 

一方、「掃きだめにツル」というのもある。西洋のことわざでは「ゴミだめにツル」となり、まわりの状況にふさわしくないほど、ずばぬけてすぐれていることを言う。自分の器に合わせて状況を選ぶか、あるいは今ある状況の中で抜きん出るか……。どちらにしても、人間に持ち上げられているツルに負けないようにしたいものである。

 
ツルのひと声

 

ところで、日本の企業も今日では欧米なみに、立ったままで会議をすることが多く、時間の節約に大きな威力を発揮する。立っているから、早く会議を終えようと活発に意見を出すし、うとうと居眠りするわけにはいかない。立っていると、眠くなってもちょっと足踏みをするだけで、心も体もシャキッとする。

 

日本のサラリーマン社会においては、こうした会議の結論は「ツルのひと声」で決まってしまうことが多いようだ。是非はさておき、この“ひと声”を発するツルが一羽ならばいいのだが、何羽もいるとただうるさいだけで面倒なことになる。ちなみに、日本にいるツルの中で繁殖しているのはただ1種「タンチョウ」である。日本を代表するこの水辺の鳥は、1952年(昭和27年)に国の特別天然記念物に指定されている。