創考喜楽

ことわざ科学館

二兎を追う者は一兎をも得ず

It means... 同時に二つのことをしようとしても、結局どちらも成功しないということ

現代人は何兎も追う

 

二つのことを同時に欲張ると、どちらもうまく行かないという意味で、これは日常生活でも痛感する。だが、現実には二兎も三兎も同時に追う必要があり、この手加減、妥協、そして“大人の発想”が大切になってくる。身近な例では、クルマの運転である。常に前方を監視し、バックミラーやドアミラーで周辺からの追い越し、路肩を走ってくる単車などをチェックし、スピードメーター、燃料計などに気を配る。

 

手は常にハンドルに“10時10分の位置”に置くのが基本だが、左手のギヤ操作の為に片手運転となることもある。すべて二兎も三兎も追っているのだ。もちろん最終的には、「安全運転」という“一兎”を追っているのではあるが。そういえば、人生そのものが何兎もの同時進行であるといえる。その間のジレンマやトリレンマを上手に処理し、よい意味の妥協をすることが大切だろう。

 

トレードオフ

 

最近、よく話題になる「トレードオフ(Trade-off)」も、一種の妥協である。もともとの意味は、商品の交換や、平均的な価格を付けるといったことだが、今日では、もっと広い意味で“妥協のテクニック”などを示している。テレビのCMには、トレードオフへの努力が多く見られる。たとえばあるビールのキャッチフレーズに「コクがあるのにキレがある」というのがある。正直いって、コクとキレのはっきりした定義は分からないが、それでもユーザーにとっては、何となく、互いに反対の性質であることが分かる。むずかしいこの二つの関係性を両立させるのに広告会社は苦心したと思われるが、これはうまく成功した例である。

 

このような“互いに足を引っ張りあう関係”を「負(マイナス)の相関」と呼ぶ。今の例で言えば、コクを横軸(X軸)にキレを縦軸(Y軸)にとると、右下がりのグラフになる。また、あるメーカーでは、食器用洗剤のCMにおいて、「洗浄力が強いのに手を荒らさない」という特色を全体のムードで見せ、好調な売り上げに結びつけた。先発の食器用洗剤にも、界面活性剤がよく効いた製品があって、洗浄力が強く、食器の汚れ落ちがいいのはよかったのだが、手の脂分まで取って、カサカサにしがちだったのだ。これが今回のCMコンセプトを生み出したといえる。このようにCMは、単にメリットをいうだけでなく「○○であるのに、△△です」のパターンを強調するのが効果的のようだ。

 

ウサギの記憶力

 

ところで、このことわざには、なぜウサギが登場するのだろうか。たぶん、速く走ることでは定評のあるウサギだからだろうが、ハンターは常に文字通り二兎を追えないわけでもない。「ウサギの記憶力」ということわざがある。ウサギがよく捕まるのは、ウサギはもともと忘れっぽい性質で、穴から追い出され、さんざん逃げ回ったあげく、もとの穴へ逃げ込んだりするからだという。本当かどうか分からないが、もしそうなら、二兎を追うのも、あながち間違ってはないのかもしれない。

 

また、「ウサギを見て犬を放つ」ということわざもある。ウサギを見つけてから猟犬を放しても、まだ手遅れではないという意味だ。日常生活でも、失敗に気づいてからやり直しても決して遅すぎることはないという、激励の教訓である。このことわざがすべての場合に当てはまるとはいえないが、ウサギを追いかけていると、一瞬、ウサギが立ち止まり、すくんだような姿勢を示すことがある。「脱兎の如し」ということわざがあるが、ただウサギのスピードだけを過大評価するのは間違いかもしれない。それにしても、逆の意味を持つ「一石二鳥」や「一挙両得」ということわざもあり、現代人は上手に二兎を追うことも必要になりそうだ。