創考喜楽

ことわざ科学館

ひさしを貸して母屋を取られる

It means... 一部を貸しただけで、後にすべてを奪い取られてしまうこと。恩を仇で返すことの意。

“母屋を取る”植物たち

 

日常生活でよく使われることわざであり、実際、そんなことが多い。軒先を貸しただけなのに、気がついたらいつのまにか、家全部を占領され、取られた側は相手に苦情も言えない。まさに「盗人、たけだけしい」状態である。こんなことから、家に限らず、一部分を貸したためにつけこまれて、結局全部を奪われることをいう。

 

そういえば、びわ湖では外国産のブラックバスがわが物顔に繁殖し、元来生息していたフナやアユを駆逐してしまっているという。このようなことは、ほかにもある。植物の例で代表的なのが帰化植物である。秋に黄色の花の大群落を作るセイタカアワダチソウは、第二次大戦後、アメリカから日本に入ってきたものだが、在来種のオミナエシ(これも黄色の花をつける)を追い払って、平然とのさばり続けている。

 

セイタカアワダチソウは繁殖力が旺盛で根が地をおおいつくすため、崖地の崩壊を防ぐなどのメリットもあるが、分泌される化学物質が、イネの発芽のじゃまをするし、また、ススキやブタクサなどの成長を抑えてしまう。その“母屋を取る”様子は、島国日本の風土にとっては明らかに異質である。

 

日本の野原の風景はセイタカアワダチソウによって一変してしまったといえる。一方、“しめ殺し植物”というのもある。熱帯地方に見られる高木のフタバガキ(幹はラワン材になる)の林では、その幹や枝に、イチジク科のしめ殺し植物が巻きついて、木の上部で葉を茂らせ、宿主であるフタバガキの光合成を妨げて枯らしてしまう。

 

カッコウの渡世術

 

動物の世界では、カッコウが特に有名である。カッコウという鳥は、人間から見れば実に勝手気ままで、なまけ者そのものの性質がある。オナガやウグイスの巣に卵を産むのだ。長野県の千曲川沿いの森では、カッコウが盛んにオナガの巣に卵を産む。その産み方も実に変わっている。オナガに知られると追い払われる恐れがあるから、じっと様子を伺い続け、ほんの10秒ぐらいの、オナガの親鳥不在のすきをねらって、敏速に卵を1個産み落とすのである。そして同時にオナガの卵を1個失敬する。

 

なぜ失敬するか、いくつかの説があるが、たぶん、巣の中の卵の合計の数を合わせておいて、オナガの親鳥が巣に帰って来ても、留守中の“異変”を知られないようにするのだろう。あるいは、たまたま巣にいるところを途中で発見されても、オナガの卵を食料としてとりに来たと思わせるためだという説もある。

 

いずれにしても、人間にとって実にふしぎで、どうにも理解できないのは、そのあとのオナガの親鳥の行動である。“彼女”は、カッコウの卵も平気で自分の卵といっしょに抱いて温める。大きさも模様もわずかに違うのだが、中身の違いはまったく気にしない。そして10日ほどたつと、まずカッコウの卵が先にかえり、カッコウの幼鳥が出現する。この幼鳥は本能に従って、まず親鳥の留守中に、まだかえっていないオナガの卵を巣の外へ、体で持ち上げるようにして放り出す。

 

こうしてカッコウの幼鳥は、オナガの巣を独占してしまう。カッコウの幼鳥が成長するまでの間、オナガの親鳥は、自分より体の大きいカッコウの幼鳥に、せっせと餌を運び育てる。こうしてオナガは、文字通り「ひさしを貸して母屋を取られ」てしまい、自身の子どももなくしてしまうのだ。本能とはいえ、カッコウのこうした行動には驚くべきものがあり、人間にとっては到底考えられないことであるが、自然界にはこうしたふしぎな現実が数多く存在するのである。