創考喜楽

ことわざ科学館

馬耳東風

It means... 他者からの意見や批評を気にかけず、聞き流すこと。

馬の耳の優れた能力

 

人間は同じ地球に住む仲間たちの行動や習慣を知っているようで、意外に知らないものである。そして、動物たちへの笑うに笑えない誤解が、風刺に富んだことわざを生んでいる。

 

「馬耳東風」もその一つで、「馬の耳に念仏」や「猫に小判」とよく似た意味を持つ。こちらの発言の意味を理解できない人や、ものの価値のわからない人、聞く意志をもたない人には、情報がまともに伝わらず、何を言っても無意味だということである。

 

なぜそうなったのかはわからないが、昔から馬の耳は、風が吹いても、念仏を唱えても、まったく感じることのない”ただの穴”だと思われていたという説がある。だが、この説は人間側のとんでもない勘違いだ。実際のところ、馬の耳には、その聴力をはじめとして、人間のかなわない優れた能力があるのだ。

 

馬は、左右の耳の向きを前方、横、後方にと180度も変えることができる。人間の場合、耳介(頭の側方にある貝殻状の部分)にはわずかに痕跡程度の3個の筋肉しかないため、耳を動かせる人は特技として自慢できるほどなので、その差異は歴然としている。

 

このように耳を動かせることは、その耳の形と相まって、馬の聴力向上に役立っている。たとえば人間は、特定の方向からの音や、弱い音を聴こうとするとき、手をお椀のような形にして耳の後ろに当てるが、馬は、その必要がない。竹を斜めに切ったような形の耳は、特定の方向からの音を受け止める指向性に富んでいるので、耳だけをその方向に向け、音を受け止めるのである。

 

また、馬は両耳をある一点に向けることにより、音源との距離を測ることができる。馬が障害物に向け、自分の出した音が障害物に当たって反射する音を聴いているのである。これは、後方に対しても行えるため、真後ろの敵を正確に蹴りつけることもできる。このときには、蹴る直前に、耳をクルリと後方へ向けている。つまり馬の耳は、一種のレーダーにもなっているのだ。

 

“レーダー”を持つ動物

 

このレーダーを同じようにうまく利用しているもののひとつに、コウモリがある。コウモリのうち小翼手類と呼ばれるものは、飛ぶときに5万から10万ヘルツの超音波を発し、その反射音を発達した耳でとらえて、食物や障害物などの方向や位置、獲物の大きさや動きまで探知してしまう。この超音波は毎秒数回から数十回も発射されるという。この超音波レーダーのおかげで、コウモリは狭い洞窟の中でも自由に飛び回ることができるのである。その性能のよさは、多数の針金を天井から吊り下げた室内に目隠しをしたコウモリを放しても、巧みに針金をよけて飛ぶことからもわかる。

 

また、イルカも反射音を利用して水中の物体を探知する。イルカの発する声は数キロヘルツから200キロヘルツに及ぶが、この声により、直径数mmの鉄球も容易に識別するといわれている。この反射音は群れによってパターンが違うため、仲間の識別にも役立っている。このように、動物の音に対する感覚や能力には、人間の及びもつかないしかけがあるのである。